強みを活かす新事業開発の考え方|強みを活かす新事業開発:序章 

公開日:2016/09/28 更新日:2023/09/13

1.新事業開発の必要性と難しさ

企業を取り巻く環境は、国内市場の成熟化、グローバル競争の熾烈化など厳しい状況下にある。既存事業の先行き不透明感や不確実性により、現状延長上での事業運営や収益改善だけでは経営の持続性が維持しにくい状況にある。こうした事態に対応するためには革新的な取り組みが不可欠であり、不採算事業の縮小とともに新事業の開発が求められる。

企業各社の長期ビジョンや中期経営計画を見てみると、新事業や新商品の開発は重点課題として位置づけられていることは多い。「既存事業の成熟化や規模縮小を新事業で補う」「新事業によって新たな柱をつくることで経営の安定を図る」「将来の事業環境に向けて軸足を変える」など各社の思惑はさまざまであるが、いずれにせよ新事業は成長ための重要な布石であることは間違いない。

図表Ⅰ-1 新事業開発の取り組み

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このように新事業は企業の重要課題にもかかわらず、なんと失敗する事業が多いことか。マスコミでは成功事例ばかりが取り沙汰されているが、その陰で多くの新事業が成功に至らず撤収を余儀なくされているか、水面下で苦しんでいる。筆者は企業各社の新事業担当者と話をする機会が多いが、その都度、新事業の難しさに直面する。2016年にJMACが行った『第8回新たな価値創りに関するアンケート調査』では、「過去10年以内に立ち上げた事業が、期待する収益事業となっている」企業は4割である。(図表Ⅰ-1)
立ち上げた事業のうちの4割であるので、開発段階で断念したり、企画段階でストップしたりしてしまうテーマを含めれば、成功率はもっと低い。

これらデータからもわかるように、新事業の開発は簡単ではない。失敗理由は外的要因、内的要因さまざまであるが、新事業は企画段階、開発段階、立ち上げ段階、立ち上げた後の収益化段階に至るまで難しさを抱えている。新事業はこの難しさを前提に進めていかざるを得ないのである。

2、新事業の5つの原則

新事業の失敗要因をすべてかき消す奇策、妙策はない。企業各社は成功確率を0.5%でも1%でも上げようと日々努力している。新事業を開発推進していくうえで以下の5つの原則に基づいた実践が不可欠となる。

原則①-成長分野に身を置く

事業を持続的に成長させていくためには、自らの軸足を成長分野に置く。「成長分野を目指す」のではなく「成長分野に身を置く」という認識が重要である。自らが成長分野の中にいれば、市場の拡大とともに顧客ニーズが拡大しビジネスチャンスが増える。たとえば、材料メーカーで、これまでの産業材から電子材料や医療材料に重点領域をシフトさせている例は多い。製造業やサービス業が国内から新興国市場に経営資源をシフトすることも成長分野に軸足を置くことになる。

原則②-現、拡、新のアプローチ

一般書籍・セミナーでは現事業、新事業という2区分で語られることが多い。しかし一足飛びに新事業に挑戦するよりも、まず事業範囲の拡張つまり周辺市場や周辺技術の取込みからはじめて、次第に新市場、新技術の開発を行うほうが圧倒的に失敗は少ない。よって、事業開発のアプローチとしては現事業→拡事業→新事業という捉え方で取り組むべきである。

原則③-絶え間なく変化を分析する

顧客のニーズは常に変化する、競争相手も常に変化している。変化がビジネスチャンスとなる。変化を的確に捉え、客観的判断をするためには、日頃から市場や競合のデータを収集し分析することが大切である。一つの新商品がヒットを飛ばして業績を回復した例に目が向くが、安定して実績を残している企業は、地道に調査分析を続けながら開発に注力している。

原則④-市場を創るもの

成長企業では、独自のコンセプトで顧客を魅了して売上を拡大しているケースが多い。つまり、自社の独自性で新しい価値を創造し、その価値に基づいて市場や顧客を創造している。他社追従は、市場が出来上がっており目標設定はしやすいが同質競争に陥りやすい。自社の強みがどのような価値を創出できるか、どのような未来市場を創出できるかを絶えず追及すべきである。

原則⑤-自らアクションを起こす

顧客の価値観や流通構造の変革などを察知し、先手先手で事業展開していくことが必須となる。誰よりも早くビジネスチャンスをつかむには、自らの積極的なアクションが求められる。BtoB企業では、これまでは顧客企業の要望に応じて製品・サービスを開発し成長を遂げてきたところもあるが、これからは受身では生き残れない。自らが戦略を立ててアクションを起こすことが不可欠である。

3、強みを活かす新事業の進め方

新事業の開発は、活動の全体感を展望しながら組織的・体系的に進めることが大切である。担当者や関係者の「思い込み」は、事業の障害となる。新事業開発特有の方法を身につけて進めていくことが肝要であり、手順にそって確実に遂行していくことが重要となる。

新事業開発の手順は、図表Ⅰ-2に示すように3つのステージを設定し、ステージごとに実行する項目を明確にして進める。ステージごと、あるいはステージ内に意思決定のポイントをいくつか置いて、GO/STOPの判断を行うとともに、方向性の見直しを行いながら進めていく。

第1ステージは新事業開発のガイドラインの設定である。いきなり「何か儲かるものはないか」と探して、結果「自社の体質に合わない」「自社の強みが活かせない」として却下されるケースは多い。新事業の方向性を明らかにして合意形成を行う。

第2ステージは、新事業を探して企画する段階である。情報収集を十分に行い幅広くビジネスチャンスを集める。そして探した新事業の企画を行う。「自社としてどのような新事業にしていきたいか、どれぐらいの新事業にしていきたいか」を企画構想する。

第3ステージは開発・市場参入の段階である。市場開発、商品開発の実務を経てテストマーケティングを繰り返しながら市場参入を果たす。顧客の反応から次の方法を導き出す仮説検証型のアプローチを実践する。

次章からは各ステージに沿って進め方と分析の方法を示す。

図表Ⅰ-2 新事業開発の進め方

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