5分でわかるビジネストレンドワード
今後の新しい働き方となるか?
「個人事業主化」の概要と制度導入の課題とは?
働き方が多様化する中で「個人」に目を向けた働き方が注目されています。これまで、正社員だった人が業務委託契約に切り替わる「社員の個人事業主化」という働き方です。「個人事業主化」とはどんな制度なのか、また、導入する前に知っておきたいことを紹介します。
「個人事業主化」という新たな働き方の流れ
広告代理店大手の電通は、2021年1月から正社員の一部を業務委託契約に切り替え、「個人事業主化」する制度を取り入れました。また、健康機器メーカーのタニタもいち早く2017年から働き方改革の一環としてこの「個人事業主化」制度を導入しています。
報道によると、電通では10年間は電通時代の給与を基にした固定給と業務の利益に応じてインセンティブを支払い、タニタでは社員時代のベースに基づいた基本給と追加業務にはプラスの報酬が支払うとされています。また、どちらの会社でもリストラ策ではなく働き方改革の一環という位置付けであることを表明しています。
個人事業主化するとはどういうことか?
正社員は会社と個人が雇用契約を結ぶ働き方です。個人事業主化すると、会社と個人の直接の雇用形態ではなく、「定められた内容の業務」に対して業務委託契約を結ぶ働き方に変わります。
このような雇用形態の移り変わりの背景には、経済、市場の変化による会社や個人を取り巻く環境の変化があります。終身雇用、年功序列が崩れつつある昨今では、個人の働き方が多様化し、正社員・契約社員・派遣社員などさまざまな雇用形態の人が一つの会社の中に入り交じって仕事をしています。同時に企業としても、新しい働き方を求める社員の声に耳を傾け、個人の成長を意識する方向に意識が変わってきています。
個人事業主化は、こうした働き方の多様化に対応する方法の一つと位置づけられています。
個人事業主化の導入による会社と個人の変化
では、実際に企業が個人事業主化の制度を導入した場合、会社と個人の変化にはどのようなものがあるか、見ていきましょう。
まずは導入による会社のメリットを考えてみます。
雇用形態が社員の場合、会社は基本的に社員をどこかの組織に配置し、その中で業務を与えます。一方、個人事業主としての業務委託契約になると、会社は専門性のある社員に対してさまざまな部門を横断して業務発注ができるため、会社全体の流れを理解してもらったうえでの質の高いアウトプットを期待できます。
社員が個人事業主になると、他社の仕事も引き受けることができるようになり、社内だけでは得られないスキルや経験が得られます。その人が他社での経験によるアイデアを活かし、社内の新規事業につなげるなどの動きも期待できるでしょう。
次に個人にとっての変化です。個人事業主になると会社の中のいち社員という立場でいるよりも働き方の幅が広がります。仕事の広げ方次第で収入を上げることも可能です。仕事量・収入・時間・場所を個人でコントロールすることができます。
また、「個人として働く」という意識が深まることで、「○○社の○○さん」という位置付けでなく、個人として自分のスキルをどう市場に活かしていくのか、自分の価値をどう表現していくかと主体的に動く意識が高まります。会社にもしものことがあった時、この働き方は個人にとってはリスクヘッジになるとも言えるでしょう。
導入する前に知っておきたい、個人事業主化制度の課題
これからは「個人」を成長させない限り、会社も個人も生き残れないとも言われています。実際に導入を検討する場面に備えて、個人事業主制度の課題を知っておきましょう。
まず、個人事業主化制度のメリットが成り立つためには、個人事業主が主体的に働く意識を持って取り組むことが前提となります。個人事業主が、働き方が変わってもこれまでと同じ基本給がもらえるからと、「少しくらい手を抜いてもいいだろう」という考えを持っていては成り立ちません。導入する際、会社側は生産性の高い人材かどうかを見抜かなくてはいけません。
そして、外部とのやり取りが増えることでの情報漏洩リスクがあります。副業制度等の導入と同様に、規定を設けなくてはいけません。
もう一つの課題が労働時間の管理です。日本の労働基準法では、「従業員の労働時間について本業と副業の通算で把握すること」が義務づけられています。2020年9月に厚生労働省が「副業・兼業促進に関するガイドライン」を改訂し、事前に取り決めがあれば他で働く労働時間を把握しなくてもいいとされていますが、それでもやはり会社側は長時間労働と健康管理に気をつけなくてはいけません。正社員から業務委託契約に切り替えるために、個人事業主が不当な扱いを受けないようにと、会社としての配慮を行なっている会社もあるようです。
日本の労働者の間では、法律で守られた雇用形態の正社員の方が個人事業主よりも安全だという考えがまだまだ強い傾向にあります。正社員からいきなり個人事業主化にするのではなく、まずはトライアル制度、お試し期間など社員が挑戦しやすい取り組みからスタートしてはいかがでしょうか。
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