5分でわかるビジネストレンドワード
人材領域でも注目の「レジリエンス」を理解する
予測のしづらいビジネス環境や成果主義の導入など、ビジネスパーソンをとりまく環境は厳しさを増しています。「レジリエンス」とは、こうした困難な環境でも、心が折れることなく、柔軟に克服できる力を指す語です。
「レジリエンス」の意味と由来
レジリエンス(resilience)は、「回復力・復元力・弾性(しなやかさ)」などを意味する言葉です。また「脆弱性」の反対語としても使われ、自発的な治癒力を指します。
もとは物理学用語として、物体の弾性を表す言葉として使われていました。一度踏まれたり、押し潰されても、すぐに立ち直り、復活するイメージです。それが心理学の分野で、精神的な強さの指標の一つである「心の回復力」の意味で使われるようになり、現在では、個人だけでなく、企業や国家を対象にして「逆境をはねのけて回復する力」「変化に適応する力」などを表す語として使われています。
企業における「レジリエンス」という語には、個人について言う場合と組織について言う場合がありますが、とくに人材領域に深い関わりがあるのは「個人のレジリエンス」です。背景には、成果主義を前提とした人事評価や厳しい競争環境にさらされて、心の健康に不調を生じる従業員が増えている実情があります。そんな中で、一人ひとりの心の健康を守る手段として、レジリエンスが注目されているのです。
どのような経緯で使われるようになったか
ホロコーストで生き残った人に使われた
心理学的な意味での「レジリエンス」という語は、第2次世界大戦で、ナチスが行ったホロコーストで生き残った人に使われた言葉だと言われています。ホロコーストのトラウマから抜け出せず、生きる気力を持てない人たちがいる一方で、恐怖を乗り越えて幸せに暮らしている人もいる。そうした人たちを調査したところ、ものごとのネガティブな面だけでなくポジティブな面を見出し、逆境を乗り越える「回復力・再起力」を持つことがわかり、それを「レジリエンス」と言うようになりました。
東日本大震災の時にも注目された
2011年に発生した東日本大震災において、日本は強力なレジリエンスを持つ社会として世界から注目されました。大地震や巨大津波、福島第一原子力発電所の事故による未曾有の災害に見舞われた直後でも、暴動やヒステリックを起こさず、復興に全力を注ぎ込む政府と日本人の姿勢に世界が注目したのです。
ダボス会議で言及された
この言葉が広く知られるようになったのには、2013年の「世界経済フォーラム」(通称・ダボス会議)の影響もあります。このときの会議のメインテーマは「レジリエント・ダイナミズム(強靭な活力)」。グローバル化が進む現代は、経済や金融危機、自然災害やテロが起きれば、被害が瞬く間に世界中に広がってしまう。そんな悪状況の中でも経済を回復させる、強力なレジリエンスが必要不可欠だと認識されるきっかけとなりました。
個人のレジリエンス・組織のレジリエンス
「レジリエンス」という語は、「レジリエンスが高い人」または「レジリエントな組織」のように使われますが、ここでは、個人と組織のそれぞれについて、どのような人・組織が「レジリエンスが高い」といえるのかを見てみましょう。
レジリエンスの高い(レジリエントな)人
個人の場合は、「会社が求めることに柔軟に対応でき、成長につなげられる」、また「困難な問題や危機的な状況、強いストレスにさらされても折れることなく立ち直れる」といった意味で用いられます。
レジリエンスの高い人は、「考え方が多様で柔軟である」「気持ちの切り替えがうまく集中力が高い」「自分にも人にも優しく、周りの人と協力関係を築く対人関係のスキルが高い」「チャレンジを続けられる信念を持っている」「自分の強みを認識する自己肯定感が高い」などの特徴が挙げられます。つまり、逆境に遭ってもうまく乗り越えることができる人が「レジリエンスが高い(レジリエントな)」人といえます。
一方、レジリエンスの低い人の特徴は「考え方の柔軟性が乏しい」「自分にも人にも厳しい」「一人で抱え込む」「対人緊張が強い」「チャレンジすることに怯む」「自分のネガティブな面に意識がいく」などです。逆境に弱く、通常のパフォーマンスを発揮するまで時間がかかってしまう人といえます。
レジリエンスの高い組織
レジリエンスの高い(レジリエントな)組織とは、「ビジネスモデルを大胆に変革することができる」、「難しい状況をしなやかに乗り越えて事業の継続につなげられる」組織のことです。具体的には次のようなことが挙げられます。
BCPにより危機管理ができている
自然災害や人為的なトラブルが起きたとき、BCP(事業継続計画)で定めたマニュアルに基づいてスピーディに行動をとることができ、素早く平常業務に立ち直ることができます。
コロナ禍で問われる「BCP」の重要性:https://solution.jma.or.jp/column/c210511/
ダイバーシティが確保されている
年齢、性別、国、人種の多様性を認め、異なる価値観を受け入れる「ダイバーシティ」の取り組みが確保されている組織はレジリエンスが高いと言えます。多様な人材が活躍する組織の構築が機能していることで、ビジネスモデルの変化などにもうまく適応できます。
レジリエンスが注目される理由
VUCA(ブーカ)な事業環境
VUCAとはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの頭文字を取った言葉で、「先行き不透明で将来の予測が困難な状態」を意味します。もとは軍事用語として使われましたが、現代の社会情勢を指してビジネス分野でも使われるようになりました。
VUCAな事業環境のなかでは、起こっている変化に柔軟に対応し、困難や逆境を乗り越える力が求められています。そのため、組織を強化する手段の一つとして、レジリエンスに注目する企業が増えています。
ストレスが増大する労働環境
求められる仕事の質、量、責任、さらには対人関係などにより、労働環境のストレスは増大しています。厚生労働省の令和2年「労働安全衛生調査(実態調査)の概況」では、「仕事や職業生活において強いストレスを感じる」労働者が54.2%と、過半数がストレスを感じている結果となりました。
ストレスが増大する労働環境では、心の健康に不調をきたす人も増え続ける可能性があります。そのため、折れない心をつくり、しなやかに克服できるレジリエンス重要性が増すという認識広まっています。
令和2年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況:
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/r02-46-50b.html
コロナ禍による行動制限
新型コロナウイルス感染症の拡大によって、企業・従業員は出勤制限や対面での営業活動など、これまで経験したことのない行動制限がなされました。また今後も感染数の状況によっては、自粛やリモートワーク、あるいはこれまでと違ったアプローチが求められるかもしれません。こうした予測困難な事態に、柔軟に適応するためにも、レジリエンスが注視されています。
日本人特有の課題
日本でレジリエンスが注目される理由の一つには日本人特有の事情もあります。それは、自己肯定感の低さです。内閣府による「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(平成30年度)」では、「私は、自分自身に満足している」と回答した人が全体の45.1%と、比較対象である諸外国と比べて明らかに低い水準となっています。
我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(平成30年度):
https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/ishiki/h30/pdf-index.html
自己肯定感が低いと、自分の強みよりも弱みに目がいき、強みを活かした斬新な発想や思考が生まれにくくなると考えられています。また、自信のなさが態度に表れ、国際競争のなかで、自己肯定感の高い国に遅れを取る可能性もあります。そうならないためにも、とくにビジネスパーソンがレジリエンスの強化を図る必要性が叫ばれているのです。
どんな企業や人材がとくにレジリエンスを強化するべきか
レジリエンスはすべての組織や個人が身につけておくべき資質ではありますが、とくに下記のような組織、人にとっては必要性の高いものといえます。
変革が求められる業界、顧客のニーズ変化が激しい業界
過去の成功体験が通用しなくなり、変革が求められている業界や、顧客のニーズの変化が激しい業界は、組織・個人の両方のリジリエンスを強化して、ビジネスモデルを大胆に変革し、変化の早い環境に柔軟に対応できる力をつけていく必要があるでしょう。
リーダーや役職付きの従業員
組織のリーダーや役職付きの従業員には、組織内外からのストレスや責任などが重くのしかかります。そのため、重圧や変化などに負けず、しなかやかに適応できるようレジリエンスを高める必要があります。
まとめ
今後も企業を取り巻く社会情勢や、従業員の労働環境は一層厳しくなることが予想されます。人材育成の場面でも、困難に折れることなくしなやかに克服できる「個人のレジリエンス」を高める意義は大きいといえるでしょう。
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