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デリゲーションとは何か。進まない理由は?

公開日:2023/07/27 更新日:2023/07/27

組織力をアップするための手法の一つに、上司が部下に仕事を任せる「権限委譲」があります。デリゲーションとは「権限委譲」の意味を持つ言葉。そのニュアンスと、効果的な進め方について解説していきます。

デリゲーションとは何か

デリゲ―ション(またはデレゲーション)には、もともとは「代表派遣団」「代表任命」などの意味がありますが、ビジネスの分野では一般的に、上司から部下への「権限委譲」という意味で用いられています。

部下に権限を委譲し仕事の一部を任せることで、部下の主体性が向上したり、新たな視点が芽生えるなど成長が期待できます。

また、日本ではマネージャーがプレイヤーも兼ねる、いわゆるプレイング・マネージャーが多いと言われますが、こうした立場にある人がデリゲーションにより現場を離れることで、マネジメント業務に集中することができ、組織の生産性向上がもたらされると考えられます。 

「エンパワメント」との違い

デリゲーションと同じ権限委譲という意味で、「エンパワメント」という語が使われることもあります。しかし、デリゲーションとエンパワメントはニュアンスが違うため注意が必要です。

そもそもエンパワメントは女性の権利運動、公民権運動などから出た言葉で、弱い立場や抑圧された立場にある「Powerless(力のない)」な人々を「Power(力)のある状態にする」という意味合いも含んでいます。つまりビジネスシーンにおけるエンパワメントは「一人ひとりに力をつけさせること」であり、その結果は一般に、成果より成長で評価されます。こうした意味でエンパワメントは、部下の育成に重点を置いた言葉といえます。

一方デリゲーションは、上司が部下に仕事を任せ、そのことで生まれる成果を評価します。部下に仕事を任せることで、主体性や自律性、潜在的な能力を引き出し、組織として成果を上げることが目的といえます。

デリゲーションの狙いとは

デリゲーションの主な狙いは、「成果を上げること」です。そのため、実施する際には、以下のような点を意識しておく必要があります。

①マネージャーがマネジメント業務に集中できること

マネージャーが評価するのはあくまで成果です。業務の進め方については部下に任せ、さらには結果に対しての責任を持たせるところまで権限委譲します。そうすることでマネージャー層は本来のマネジメント業務に集中でき、結果として組織全体としての成果につながります。

②部下の自主性、自律性を育てること

上司から仕事を任された部下には、責任感や自主性が芽生えます。新しい業務や難しい業務に取り組む過程で、能力だけでなく自信や自尊心も向上し、そのことでより高い成果を上げることができるでしょう。

デリゲーションを阻む考え方

マネージャーの考え方によっては、デリゲーションがうまくいかないケースもあります。デリゲーションを阻む考え方には次のようなものがあります。 

「部下に任せるより自分がやったほうが早い」

マネージャーが部下と自らの能力を比較しても、組織に何も成長をもたらしません。「権限委譲にかかる手間」はもちろんありますが、部下が成果を出せるように努めるのがマネージャーの仕事です。 

「成果を出せる人材がいない」

仕事を任せられる人材がいないからといって、マネージャー自ら案件を抱えてしまうと、本来のマネージャーとしての職務が成り立ちません。

「自分でやりたい」

マネージャーが長年担当していた業務など思い入れがある場合に起こりがちな考え方です。しかし、マネージャーが自分で進めてしまうことは、部下の仕事を奪っていることにもなります。

 「自分のやり方にこだわりたい」

マネージャーとしては、自ら成果を上げてきた方法がベストだと考えがちです。しかし、進め方はその方法以外にもあるかもしれません。部下を信用してやり方を任せることも必要です。

マネージャー層が自分本位の考えで動いてしまうと、デリゲーションは進みません。組織力を高めるには、上司部下の信頼関係を高め、マネージャー自身の考え方を改める必要があります。

デリゲーションを進める上での注意点

デリゲーションをうまく進めるための注意点を紹介します。

任せたら見守る

デリゲーションの基本は「任せきること」です。とはいえ、スタート前に上司部下間で「担当業務の内容」「業務上での守るべきルール」「評価基準」など「任せきる範囲」を決める必要があります。上司部下との信頼関係作りも重要です。

やり方に口は出さず結果を重視する

デリゲーションでは「任せきる範囲」が決まったら、困った時のフォローや相談以外は部下のやり方に口を出さず見守ります。成果が出るには時間もかかりますが、マネージャーの委任した業務が成果に結びつくことが目的であるため、「見守り」「フォロー」をバランスよく組み合わせながら環境を整えていきます。

組織が最大限に力を発揮するにはデリゲーションが不可欠です。デリゲーションを成功させるためにも、阻害要因にもなるマネージャー層の意識を改め、支援体制の構築を進める必要があるといえるでしょう。