今どき研修テーマ&メソッド図鑑
アート思考とは何か?どのように身につけるのか?
技術が進化したことでさまざまな商品やサービスが生み出されるようになり、企業間競争がますます激化しています。企業がこれまでにない商品を作り出すためにはさらなる新しい発想が必要で、そこに注目されているのが「アート思考」です。「アート思考」とはどういうものか、その意味や身につけ方について解説します。
アート思考とは?
アート思考とは、アーティストが「0」から「1」を生み出す過程で行う発想法のように、常識にとらわれない自由な思考法のことで、ビジネスにおいても独創的なサービスや商品を生み出す思考法として注目されています。市場に似た商品が溢れている環境下では、社会に革新的な価値を生み出すためにアート思考を活用する企業も増えています。東京大学、京都大学、東京藝術大学などの国立大学と企業の間で、産学共同研究も行われています。
なぜ今アート思考が注目されるのか?
デジタル技術の発展によって市場には多くの商品やサービスが溢れ、競合他社との差別化が難しくなっています。さらに、VUCAと呼ばれる不確実な時代にはあらゆる問題が複雑化しています。こうした時代に、課題を見つけ出しその解決図るには、何か常識を超えた発想が必要であり、その手段としてアート思考が注目されているのです。
またユーザーの価値観の多様化やユーザーとの接点が多様化・複雑化している現在、顧客体験(CX)が重視されるようになっています。そんな中、企業が斬新な顧客価値や顧客体験を生み出すには、顧客をより理解すること、先入観や固定観念なく自分の眼で純粋に観る力(観察力)が必要です。アート思考はこうした観察力を養うのにも有効とされています。
ユーザーが商品を購入するきっかけも、機能から選ぶのではなく、商品のコンセプトやストーリーに共感して購入する流れが生まれています。アート思考による型にとらわれない自由な発想を取り入れることで、ユーザーが共感できるストーリー作りに役立つと期待されています。
他の思考法との違い
アート思考と比較されやすい、デザイン思考、ロジカル思考との違いを解説します。
デザイン思考とアート思考の違い
デザイン思考の特徴は、ユーザーを起点にした「客観的視点」でアイデアを生み出します。一方、アート思考は「主観的視点」で自身の自由な発想からアイデアを生み出します。デザイン思考はユーザー視点に寄り添った課題解決を目的としますが、アート思考の目的は独自の思考や感情をベースに斬新なアイデアを生み出すことです。
ロジカル思考とアート思考の違い
ロジカル思考は、物事を体系的に整理し論理的に考える思考法です。そのため、アイデアを人にわかるように伝えるといった場面では大きな意味を持ちます。自由に発想するアート思考と異なり、ロジカル思考は目の前にある課題に対しての解決法であるとも言えます。
アート思考の身につけ方
自由なアイデア出しに活用できるアート思考は従来のビジネスにはない発想法であるため、実践法についても全く違う方法で身につける必要があります。ここではアート思考の学び方の一つである「対話型鑑賞法」について解説します。
対話型鑑賞法
対話型鑑賞法とは、ニューヨーク近代美術館で開発された方法で、想像力や考える力を高めるためのアート鑑賞法の一つです。ビジネスにおいても想像力や思考力を鍛えるためのトレーニング法として活用されています。その手順は以下のようなものです。
①作品を見る、観察する
目の前にある作品をじっくり見て観察します。「何が描かれているのか」「どのような色なのか」など、見たものに対しての自分の考えだけを思い浮かべます。観察のポイントは、正解を出すことではなく、「自分がどのように感じているのか」に気づくことです。
②作品から得た印象について掘り下げていく
作品を見た際に思い浮かんだ「自分の考え」について振り返りをします。たとえば同じ作品を見ても、見る人によって「なんだか怖い絵」「エネルギーが飛び交っている絵」などとそれぞれ違った印象を持つことがあるはずです。重要なのは、なぜそういった印象を持ったのかを自分に問い続けることです。「黒っぽい色が使われているから」「色が何色も使われているから」などと言語化することで、自分の思考が無意識に影響されていた情報に気づくことができます。
③作品について感じたことをオープンに話す
①と②で感じたこと、考えたことをオープンに人に伝えます。考えの根拠となる情報についても人に伝えてます。相手に伝わりやすいように工夫して話すことで、「伝える」トレーニングにもなるでしょう。
④他の人の話も聞く
同じ作品を見た他の人の感想も聞きます。人の話を聞くことで「誰が見てもそうだとわかる事実」「自分だけが感じた見方」などを知ることができ、自分なりの答え、価値観に気づくことができます。人の話も否定をしないで「そのような捉え方もあるんだと」受け入れることが重要です。
企業がアート思考を取り入れることで、オリジナリティのある発想や「0」から「1」を生み出すための思考力を高めることができます。ビジネスチャンスを広げるための新しい手法として、アート思考にも注目してみてはいかがでしょうか。