リーダーシップの学びに『感動』を
研修の最前線で活躍する講師のインタビューを交えながら、様々な人材育成テーマについて考えるシリーズ。初回は「リーダーシップ」についてお伝えしていきます。
vol.1「リーダーシップの学びに『感動』を~イントロダクション~」
日本における「リーダーシップ」
ビジネスで新しいチャレンジをしたり、世界とよりスピード感をもって関わっていくうえで、
「リーダーシップ」を備え発揮することは役割・階層を問わずますます期待されています。
皆様の組織でも、「リーダーシップ開発」は1つの重要テーマとして扱われ、試行錯誤されているのではないでしょうか?
この20年、日本への導入・普及が進められてきましたが、今なお日本人は「マネジメント」の方が得意で、
遠い将来を見通すことや、ビジョンや価値観をメンバーと語ることが不得手と言われることもあります。
多くの一般社員の方は「リーダーシップ」は自分には縁のないものと思いがちですし、ミドルマネジメントは短期の業績管理に追われています。
「リーダーシップ」の学びの場をどうつくるか
「リーダーシップ」は人の内面に深く根ざすものであり、また直に人間に働きかけるものであり、理論が頭に入っているだけでは発揮するのが難しい、ということにも留意して学びの場をつくっていく必要があります。心が動いた経験があってこそ、その人のその後の行動は変わっていくのではないでしょうか。
今回インタビューした講師 中島克紀氏は、20年間「リーダーシップ」の日本での普及に携わってきました。その過程を振り返りながら、人々の力を引き出し発揮を支援するために中島氏がどんな信条をもってトレーニングの場をつくっているか、研修に参加される方にどのような変化があるのか、お話ししていきます。
vol.2 リーダーシップ開発の歩み 「マネジメントからリーダーシップへ」
日本のリーダシップ開発の出発点は?
―日本のリーダーシップトレーニングの出発点についてお聞かせください。
(中島)
歴史は古いです。1990年代初めのバブル崩壊で、どの日本企業も低成長に入りました。日本能率協会もその低成長に入った企業に、どんなプログラムが有効で必要とされているのかを考えました。かつて、同じようにアメリカが双子の赤字になって、それを乗り越えた。その時のキーワードは、『マネジメントからリーダーシップへ』でした。
後には「マネジメント&リーダーシップの2つは両輪」という考えが定着するのですけど、米国は徹底的に変革するという一面もあったので、マネジメントを否定し、リーダーシップを前面に取り上げる動きでしたね。
この動きは、“パラダイムシフト”や、その後出てくる“イノベーション”というキーワードとも繋がるものでした。今までのやり方や考えを、一回ゼロにして、もう一回作り直すこと。そういう風潮が日本でも生まれました。
1990年、日本への導入、ということでは、財団法人センターフォークリエイティブリーダーシップ(CCL)という米国の有名なリーダーシップ研究機関とジョイントをしてプログラム開発をする機関として、日本能率協会が選ばれました。ちょうど10年先の21世紀をみるということで、「リーダーシップ21」というプロジェクトでしたね。
日本は、ビジョンを描くこと、熱く語ることが不得意?
―中島講師自身がリーダーシップトレーニングの講師を担当するきっかけは?
(中島)
その「リーダーシップ21」のプロジェクトリーダーとしてアメリカに2年ぐらい行ったり来たりしながら研究したのが、私にとってのきっかけです。
その時わかったことは、『日本は将来のヴィジョン、先を見る目が不明確なことが多い』ということです。単純にアメリカと比較して、『ビジョンを熱く語ることが日本人は少ない』と、強く感じたことを今でも思い出します。それを伝え、変えていかないといけないと痛感しました。
さらに、アメリカの素晴らしい点は、アセスメントツールをふんだんに使うこと。
CCLでも4種類の診断ツールを活用して、自分の強み・弱みを、あぶりだしていく。
そして半日かけてフィードバックするので、重厚なプログラムでしたね。
1週間でやっていたプログラムを、3日間に圧縮して日本で始め、企業でも導入いただきました。日本で初めてに近いと思うのですが、リーダーシップに特化した360度評価も取り入れたのです。それが日本に大体普及が始まったということになります。
私は日本全国のリーダーシップ開発の普及活動に携わりながら、セミナーの講師を担当するようになりました。トレーニングのやり方もアメリカ的で、ペア講師、バディシステムといったものを取り入れました。このやり方も日本で初めてに近いと思います。雰囲気が違う2人の講師がやり取りするような感じで進めて行くので、参加者の反応も様々になり面白かったです。
リーダシップで大切な『人間力』とは?
―『講師から受講者へ伝える』旧来の一方通行的な研修のスタイルとは全く違いますね。
(中島)
全く違いましたね。アクションラーニングを取り入れた“劇場型”の研修の場をつくっていて、まさに
演劇メソッドもその頃から私自身意識していました。なぜかというとリーダーシップは、“人間力”が重要だからです。
“人間力”は、“ビヘイビア(行動・態度)”や、“立ち居振る舞い”から来ています。第一印象が大切なので、『リーダーシップ開発のなかで、表現力を高めることはとても重要』という考えは、当時からベースにありました。
vol.3 「人間性重視」「実践重視」のリーダーシップ開発
実践心理学を活用した人間性重視のリーダシップ開発とは?
―リーダーシップ開発の普及を進めていくなかで、2000年代以降はどのような展開があったのでしょうか?
(中島)
リーダーシップ開発の普及を始めて10年たった頃、私は2000年に立命館大学院の客員教授に就任しました。約4年間やるのですが、その時に強烈に記憶しているのは、アメリカから持ちこんだ理論を理論通り伝えても伝わらないということでした。受け手の社会人大学院生からは「それが何?」という反応があった。何故だと悩んだ時期でしたね。
そしてわかったこと。リーダーシップは誰が相手なのかっていうと人間ですよね。
マネジメントは対象がお金であっても情報であっても勿論人間が関与するのだけれども、リーダーシップはダイレクトに人間を対象として関わる。
だから、頭で理解するのとは違う、対人スキルを高める実践的アプローチが必要だということを強く認識しました。それで実践心理学といわれる『NLP』(ニューロ・リングウィスティック・プログラム ※右図)というものを私自身が学ぶことにしました。
サンフランシスコのNLPコーチを育成する研究所のコースを、2年間の間日本から行ったり来たりしながら受講して再度勉強しましたね。そこで、2000年代以降「人間は脳を活用する」という時代に入ったのだと理解しました。『脳機能を活性化するようなリーダーシップ』ということを真剣に問いかけるようになったのですよ。
例えば、1990年代の10年間は、「信頼関係を作りましょう」、そこで終わっていたのです。
でもその後の実践心理学NLPのアプローチでは、人間の身体・脳機能の仕組みを理解したうえで有効な働きかけを抽出するものですから、「信頼関係を作るには具体的にはどんな言葉がけ・働きかけをするのか」という心理学の領域に入っていきます。その違いは、大きいと思いますね。
リーダーシップ開発の新たな課題―継続のための支援
―”生もの”である人間に対して本当に影響力を発揮するにはどうするのか、ということに踏み込んだ、ということですね。NLPを活用したリーダーシップトレーニングを実施してこられて、変化はありましたか?
(中島)
2000年以降は、NLPを活用した「人間力強化のためのリーダーシップ」というセミナーを展開してきて、多くのお客様に参加いただきました。
「傾聴力」とは具体的にどうするのかとか、「ビジョンを作る」とは具体的にどうするのかとか、それをどう表現するのかということを伝えてきました。
やってみて新たに見えてきたことは、セミナーの場では感動し行動に移そうと決意したけれども、「その後の継続が簡単ではない」という課題です。
私のどのプログラムもすごく盛り上がったけれど、1週間経つと少しずつ忘れていってしまったりとか、テキストもそのまましまい込んでしまった、という人も多かったですね。これは人材育成サービスの会社の反省としてずっと続いていることです。
継続・実践のためにフォローアップをしましょうとか、複数の単位を設定して長期的なコースにしましょう、といった工夫も始まりました。
特に次世代リーダーに関しては、「ジュニアビジネスリーダーコース」という若手向けの長期コースを開発し、各社内の「メンター」という役割の方に介入いただいて、継続するような仕組みを作りました。2階層ぐらい上位の方がメンターで、30代の若手の参加者を鍛えるというコンセプトでスタートしました。
あれぐらい社内の方に関わってもらう長期公開型コースは、当時なかったと思います。
メンタリングとかコーチングなど、育成支援者の存在が必要だという気運が日本に高まった時でした。ですから非常にマッチしたということになります。
vol.4 世界水準のプログラム「リーダーシップ・チャレンジ」との出会い
全階層に、リーダーシップを!
―グローバル化が進む中で、企業の状況も急速に変わっていく状況だったと思うのですが、リーダーシップ開発のアプローチも変わってきたという感触はありますか?
(中島)
提供する側としては、日本人のための日本発のプログラムのままでいいのか、という問題意識がありました。世界水準の、グローバルで一番評価が高いといわれている最先端のプログラムを探そうということになったのです。
そこで日本能率協会が様々検討した結果、「リーダーシップ・チャレンジ・ワークショップ」に出会うのですよ。この世界水準のプログラムを、日本のグローバリゼーションの時代を繋ぐリーダーに一度は受けてもらいたい、そのために日本への導入を進め、実現することとなりました。
◆「リーダーシップ・チャレンジ・ワークショップ」プログラム詳細はこちら
◆参考書籍
「リーダーシップ・チャレンジ」ジェームズ・M・クーゼス著
(海と月社)
「リーダーシップの真実」ジェームズ・M・クーゼス著
(生産性出版)
特徴的な考え方は、たとえば全階層を対象とすること。
かつてのリーダー育成は、現任のトップマネジメント層のみにリーダーシップ研修をしようと謳われてきました。またその次の時代は、次のトップ候補となる層にリーダーシッププログラムを提供してきました。
しかし、トップだけ鍛えてもその元にいるメンバーたちがリーダーシップを発揮しなければマネジメントの世界に戻ってしまうのですよ。そうではなく、逆ピラミッドの最上位にいて顧客と接しているフロントラインも鍛えながら、次世代リーダーとの関係性を一挙に高めることを考えました。
「リーダーシップ&フォロワーシップ」という言い方をしてもいいと思います。
全階層にリーダーシップが必要だという考え方です。
トップもミドルも若手も連携しながら同時に上がっていくということがとても重要になってくる。「リーダーシップ・チャレンジ・ワークショップ」で、それを効果的に進めていけることがわかったのです。
なぜかというと、一般社員の人達が大きな変革を起こした事例を丹念に研究してきた経緯からリーダーシップ行動のエッセンスを集約したプログラムだったからです。
日本には、ますます世界でのリーダーシップ発揮が求められている
―「リーダーシップ・チャレンジ・ワークショップ」は日本への導入以来、公開セミナーでも企業内セミナーでも数多くの方に参加いただいていますね。
(中島)
リーダーシップ行動5つのエッセンスを2日間で効率的に学べるように工夫されています。診断ツールで自分の強み・弱みをつかみ、それを高めていこうという効率的なストーリーなのです。さらに30日後と、90日後にフォローをするメンターシステムも入っていて、それも有効に働いていると思います。
社内研修として導入されているある日系企業では、トップがまず認識して、アメリカ、マレーシア、ヨーロッパそれぞれの拠点で導入されて、活性化したということです。グローバル本社のある日本でも去年からスタートし、トップマネジメントからミドルクラスに展開されているところ。
これを私はリーダーシップ・チェーンと名付けたい。日本語で言い換えるとしたら「絆」でしょうか。
これからは、きっとアジアが、一つのユニティのようになるという見方も出てきています。それが実現した時、日本は何をなすべきなのか。
今よりも高い視座とか広い視野を備えていくということも、今後考えていく必要があると思います。
2020年の東京オリンピックに向け、日本は世界の注目を浴びます。観光立国日本としても、他国と多くの相互理解をし関係性を良くするためには、リーダーシップを磨くことは避けて通れないのです。
ですから、ますます、これから日本の人々が、世界水準のリーダーシップとはどんなものかということを、体感型のセミナーで学んでいただきたいと思います。
vol.5 リーダーシップとは、楽しい旅にメンバーを誘うこと
講師がファシリテーターとして心がけていることとは
―プログラムでは、参加される方へどんな働きかけを心がけていますか?
(中島)
働きかけのポイントとしては、皆さんが初めての場所で、新しいことを学ぶと、不安な状態・緊張した状態になってしまう、その緊張を解くのがまず重要です。
人間は必ず、新しいものから自分を守るためにバリアを張るのです。表面に出る行動でいうと、たとえば『腕組み』をしたりしますね。
このバリアがある以上、リーダーシップを発揮しようとしても、ミスコミュニケーションが起こってしまうのです。そうするとお互いに相手に信頼されていないような感覚になる、と言われていますね。リーダーが心を開き、自身の良い状態を意識的につくって保つことはとても重要です。
研修の場で私が心がけているのが、まずバリアを外すために「笑顔になりましょう」、それから「心を開きましょう」、それから「真っ直ぐに立ち軸をつくりましょう」ということ。バリアはここにいる参加者皆さんを包含して外側に張りましょう。それによって外部から刺激を遮断し、集中して、安心できる場をつくります。
皆さん同士に、互いのバリアを外してもらって何でも対話できるようにすることを心がけていますね。そうすると集まった方たちの異文化・異質の体験が、相互に交流されるので、短時間で信頼関係が積み重なってくるのです。
内面的なものを共有するので、このプログラムで本当に感動したという人が多いです。
私自身はファシリテーターとして環境を整えて、「さあこっちへ行ってみませんか」と皆さんを盛り上げていくことにとても気を配っています。
それから、脳機能は実際の数パーセントしか使っていなくて70%は眠っているといわれています。私の信条は、皆さんの眠っている潜在能力を最大化させること。
セミナーでやっていることの一例を挙げると、「フロー理論」というものがあります。プロアスリートや芸術家が没頭して通常では考えられない力を発揮する状態が「フロー状態」と言われているのですが、同じような状態を職場で作ることを目指すのですね。
実現できないように思える困難なことにチャレンジして、チームワークで夢中になって取り組んだら課題解決できた、という「フロー状態」の体験をしてもらう演習などを設けています。
リーダーシップとは、楽しい旅にメンバーを誘うこと
―リーダーシップは階層・年齢を問わない、という話ですが、若い人でも発揮できるものなのでしょうか?
(中島)
0歳から我々は常にリーダーシップとマネジメントをなんらかの形で使ってきたわけですね。例えば、2014年にノーベル平和賞をとったパキスタンのマララ・ユスフザイさん、彼女は17歳でした。
でもすごく過酷な人生だった。その体験を通じて語ったメッセージは世界中に感動を起こした。
リーダーシップを発揮するということは、自分の『生き様』みたいなものを体験として語り、それが良きビジョン(ありたい姿)と繋がっているものなのです。メンバーのために、会社のために、社会のために、ということを我々は年齢など関係なく意識しビジョンを描ける。
ただし、共通の価値やミッション(使命)を深く議論し落とし込まないと、組織には間違ったビジョンが生まれてくる。たとえば、「利益だけだせばいいのか」と手段を選ばずに利益を得るのは、我々の目指すところとは違う、と真剣に言うリーダーがいなければ、変な方向に行ってしまう。創業の精神や行動基準に立ち返る必要がある。
だからGE社のジャック・ウェルチは、現在のパフォーマンスが低くても、GE社のバリューを深く理解した人を評価した、と言われています。
リーダーは、メンバーに組織のビジョンを語り、連れていくのです、「一緒に行こう」って。だからリーダーシップとは、楽しい旅にメンバーを誘い日々の仕事をエンジョイすること。楽しいから、みんなも参加してくる。
数字だけで、人はついてくるでしょうか?ついてこないですね。例えば「パリに行ってこんな体験をしようよ」って言われたらワクワクしませんか?そんな感じでビジョンを語りませんか、ということです。
ビジョンを描き語るリーダーシップは、表現、アートであるとも言えます。
セミナーでは、ビジョンを熱く表現するトレーニングとして、演劇メソッドを活用することもあります。
(企業内研修プログラム事例:右図)
最高の未来を描いて、皆さんがワクワクしながら新しい挑戦をするということを、もっともっと支援していきたいですね。
◆中島 克紀(なかじま かつのり)プロフィール◆
一般社団法人日本能率協会 エキスパート
「TheLeadershipChallenge」認定マスター
社団法人日本能率協会に入職後、マネジメントとリーダーシップの機能、チーム変革の研究と理論・実践のバランスを追及するセミナー開発に従事。アメリカの財団法人との次世代リーダープログラム共同開発後、企業・自治体での管理者教育に従事。