言葉を超えて「関係の質」を高める組織開発

公開日:2015/09/30 更新日:2023/09/13

研修の最前線で活躍する講師へのインタビューを通じて、人材育成について考えるシリーズ。
組織開発・組織変革と“楽器”―。一見、遠いところにあるように思えますが、言葉の限界を超えて組織の「関係の質」を高めることに、「リズム」は大きな作用をもたらします。組織メンバーの参加意識・協働意識や、創造性につながるアクティビティ「ドラムサークル」を切り口に、人間の本能への理解を踏まえた組織開発の取り組みについて、深代達也講師にお話を伺っていきます。

人と組織の可能性を引き出したい

-深代さんが、組織開発のテーマに講師・コンサルタントとして携わるようになった経緯を教えてください。

(深代)
僕自身は、もともと2000年ぐらいまで、バランスコアカード(BSC)のようなマネジメントの仕組みを企業や非営利組織に導入するコンサルティングの仕事をしていました。

ほかには、人事制度をマネジメントの仕組みに連動させ、BSCでKPI(重要業績評価指標)を作り、個々に落とし込んでいって1人1人の目標管理をしっかりやっていくというような仕組みづくりもしていました。主に医療系、福祉サービスの業界向けにご支援をしていたんですね。

それはそれできれいに、“ロジックの世界”を作れます。けれど、人はそうはいかないのです。マネジメントというのはある意味で人を物のようにコントロールしようとしてしまうものなのですよね。しかし人は物ではなく、1人1人が心を持っています。心を持っているということは、ある状況に対しての認知の仕方が人それぞれだということで、その認知の受け入れる余地によって、同じ状況をいいと思うか、悪いと思うかは変わってきます。

会社や組織に不可欠な存在である「人」を、どう大切にして、可能性を引き出せるのか、というところに関心がありました

もともと大学時代に人類学や心理学を研究していて、フロイトやユングなどの箱庭療法などをやっていました。自分の家族にメンタル不調があったことも影響して、人が生きるということをどう自分なりに意味づけるかということにとても興味がありました。そういった要素がちょうどぶつかって、その頃、NLP(神経言語プログラミング)を勉強しました。

勉強してみるといろいろな流派があり、しかも理論的な背景もいろいろあり、それを勉強していくと、これは心理学の認知行動療法にもつながっていました。

NLPのメソッドを使いながら、人の可能性を引き出すことによって、組織の可能性も引き出せるようなサポートができると、自分も生きていてうれしい、と思うようになりました。そんな経緯で、チーム・ビルディングの領域を2006年ぐらいから始め、JMAの公開講座でセミナーをスタートしました。それをきっかけに、組織開発の領域をもっとやっていきたいと思うようになったという次第です。

対話型の組織開発のアプローチとは?

-マネジメントの領域と、今やっていらっしゃるテーマを比べると、振り幅が大きいような印象を受けます。企業の側からもマネジメント理論だけでは足りない、そのようなニーズが上がってきたのでしょうか?

(深代)
そうですね。マネジメントのやり方が“人を物のように扱うやり方”だと、簡単に言ってしまうとモチベーション、エンゲージメントの問題が起こって、うまくいかないのです。疲弊をしてしまうのですよね。
自分は何のために働いているのだろうか、そういう話になってしまいます。

働いている自分自身に意味があることが、組織にとっても意味があり、会社にとっても、KPIにとっても意味があることならば、お互いに幸せですよね。そこをつなげられればいいなあという思いがありました。

同様の考え方に転換する会社も増えてきているような感じはします。
だからこそ、組織開発が2、3年前にブームになったりしたのだと思います。

組織開発のアプローチも、診断をして何か施策を打つ、というようなアプローチから、対話型のアプローチに転換してきています。

それまでは、主管となる人事部門や管理部門が一方的に調査をして、分析をして、現場に対して打ち手を打ってくださいという指示命令型の取り組みも多くありましたが、それだと普通の業務になってしまうのですよね。

-職場の皆さんで対話をしながら課題を見つけて行くようになってきているのですか?

(深代)
そうです。課題を見つける対話もありますが、対話をしながらそれ自体によって関係性が変わっていく取り組みもありますね。

日々起こっている「価値の方向づけ」とは?

-組織開発で最近おこなわれている“対話”は、課題を見つけ施策を打とう、と取り組むのではなく、対話をすること自体の中で人と組織が変わっていくことが大切なのですね。

(深代)
そういうアプローチですね。最近の言葉で言うと「社会構成主義」という考え方があります。現実というのは1つではなく、言葉・非言語の情報が個々人の認知を作っていて、その認知によって人は行動しているという考え方です。その認知を作っているのはコミュニケーションです。

例えば、アマゾンの方では、「時間」という概念がない民族がいます。
「未来」というような言葉自身がない。言葉がないということは、「未来」というものも考えないということです。それはその社会で生活するために概念として必要ないから考えなくてもいいのです。

だから、私たちが「過去」とか「未来」について思うことは、実はそれはこの社会でうまく生活するためのメタファーでしかない。

-認知は人それぞれのものであるということですね。

(深代)
認知というのは言葉の「政治」である、というような話があります。
例えば、「美とは何か」と定義すること自身が「政治」であるみたいな。
だから、「Aをやった方がいい」と言うことによって、「A」というものに価値をつけながら世界を作っていくわけですよね。そこは「政治」、言い換えると「価値の方向づけ」です。

組織開発のパラダイムシフト

-組織の中で、「価値の方向づけ」というものはどのように起きているのでしょうか。

(深代)
目に見えない「価値の方向づけ」は、日々行われていて、ちょっとした声掛けにも実は、そういう方向づけが満ちあふれているのです

常に、あるしぐさ、行動、何かの結果に対しての小さな行動、そんなことに「価値の方向づけ」があって、暗黙の内に私たちに互いに埋め込まれていくわけですよね。

組織開発のアプローチで言うと、意識調査・社員アンケートで何か組織課題を抽出して、事務局中心にトップから部門に一方的に“ビジョンをもっと浸透させろ”とか、“社員の意識を高めろ”と呼びかけて施策を展開したとしても、組織の中では「価値の方向づけ」が日々のやりとりの中で埋め込まれているので、そんなにうまく誰かがコントロールできるものではありません。逆に、その”上から目線”の施策自体が、「単に仕事が増えただけ」ということにもなりかねないのです。

組織メンバー自身による対話で関係性を変えながら変化に対応するなど、現実を行動によって作っていくやり方でなければうまくいかないのです。
そんなところが、対話型、あるいは社会構成主義的な考え方の、組織開発の新しいパラダイムだと思います。

でも、そこで、“じゃあ皆さんで対話をしましょう!”みたいに始めると、何か気持ち悪いと思いませんか?

-不自然な感じを受ける人もいるかもしれませんね。

(深代)
例えば、組織変革のステップでは、変革に対するメンバーの受け入れ余地を高めるために、まず変化の必要性を共有し、そして望ましい未来イメージ・ビジョンを創っていく、というステップがあります。「変化の必要性」も「未来イメージ・ビジョン」も、対話によって、メンバー一人一人の認知として形作られていくわけです

しかし、この対話が、表面上はうまくいっているように見えても、実はうまくいかないことがある。
いきなり「対話をしましょう」と前向きな問題意識の共有を呼びかけたとしても、元々の関係性がない限りなかなかうまくいきません。

「コントロールされるのではないか」「評価されるのではないか」と用意された場で発言することに不安を持つ人も、「またどうせトップや担当部門のパフォーマンスで、どうせ変わらない」などと、その場自体をあまり信用していない人もいるでしょう。安全・安心、信用を求めることは非常に動物的な、生理的なものなのです。

本能に働きかけるツール “コーポレートドラムサークル”とは?

-不安や不信が、組織の対話の邪魔をするのですね。

(深代)
動物的な部分というのは、言葉や理屈では表しきれない世界なのですね。
「対話」というのは基本的には理屈であり、それなりにロジックが求められるわけです。
互いに安心がない限りは語りづらいし、聴く側も傾聴するマインドセットにはなりません。

不安・不信を解消するために、何か本能に働きかけるツールはないか。そこで取り上げたのが「ドラムサークル」と「Health Rhythms(メンバー相互にエンパワーしあい、逆境に負けない心・柔軟性と社会性を高めるための、米国REMO社が開発した、科学的な根拠に基づいたドラミングプログラム)」です。
それに組織開発の視点を入れ、企業向けにプログラム化して、「コーポレートドラムサークル」として展開しています。

例えば、何か音のなるものを一緒に振っていたとして、リズムが合うと少し気持が良くなったりとか、合わないと気持ちが悪くなったりします。これは、基本的に動物的、生理的な感覚で、不快な状態を解消しようとします。
この背景には、同期(シンクロ)現象という自然法則があります。

例えば、振り子の揺れはだんだんと同期するし、蛍の光る周期も同期をしたりしますね
渡り鳥は、飛ぶ時に一定の形で一緒に飛ぶことによって、同期をして、飛ぶのを楽にしたりしているのです。私たちも、誰かと歩いていると何となく足のステップが合ってくるとか、コンサートに行って手を叩き始めたら、手拍子が合ってくるとか、そういう経験があると思います。こういう同期をするというのは、まさに自然法則ですね。

そしてこれは本当に生命のリズムなわけです。

人は生きるためにリズムをもっています。例えば、心拍、呼吸、起床睡眠、脳波、ホルモンなどが典型的にあらゆる人に備わっているリズムです。だからリズムが合えば、何となく心地良く感じてしまうのです。逆に、リズムが合わないと仕事がやりにくいということも出てきます。

リズムが合って同期しているときはセロトニンが増大しているという研究結果もあります。
セロトニンというのは心のバランスを整える作用のある伝達物質で、前向きな気分になりやすいといわれています。

じゃあ楽器を使って実際に「コーポレートドラムサークル」をやってみましょうか。みなさん、鈴を一緒に振って下さい。

…一緒に振ったからこそ、今のこのメロディーが生まれました。

では、あなただけ、今のリズムをキープして、他の人は1、2、3、4でやめましょう。

…どうですか、他の人が振っているのをやめたときに、どんな気持がしましたか?

-何となく不安な感じです。

(深代)
不安になりましたか。それはすごく重要なことです。
工夫をしていたり、意識をみんなに合わせようとしていたり、何かに貢献しようとしているからこそ出てくる不安です。そうした意識がなければ、不安なんて一切感じませんよね。そしてそれを続けていくと、だんだん自信がついてきます。

リズムによる単純な仕掛けだからこそチームの本質を体感できる

(深代)
では、みなさんもまた参加しましょう。今1人だけで振った方は、みんなで振ったら、どんな気持がしましたか?

-少し不安だったけれど、これで大丈夫なのだろうと安心できる感じがします。

(深代)
やはり1人だけではなく、お互いが周りを受け止めて、アイコンタクトしながら、良く聴き、合わせることで、手ごたえが得られ、チームに自分が貢献していくことを実感できましたね。
それは「You are OK」「I am OK」という相互承認の状況がうまれるということですし、「快」を感じるドーパミンが分泌されることにもなります。

-「ドラムサークル」に参加しているみなさんが、最初はどうしようかと戸惑いながら、楽器を手にしているところ、深代さんはこうやってリードされるのですね。

その時に、今どんな気持がするのかということを問いかけ、気持ちを受容するのは、大切なことなのですか?

(深代)
はい。とても大切です。

さらに、組織や仕事の場面によっては「自由にやっていい」とリードされることもありますよね?では、こうやって鈴を振り続けながら、この中にうまく「自分なりのリズム」を入れてみてくれますか?

…みんなと同期はさせているのだけれど、自由に、工夫を入れる。言われた通りにやるのと違って、そこには勇気が要りますよね。そして、これでいいのかと思いますよね?

組織のクリエイティビティは関係性の中で成立する

-「自由にやってOK」と言われても、こんな感じでやっていいのかと、周りの人がどう思うのか気になる人もいそうですね。

(深代)
人によっては不安を感じますね。でも、まず自分なりに思い切ってやってみようとしたら、周りは変だと思わずに、「とても工夫してやろうとしている」と感じる。周囲がそのチャレンジを歓迎し、面白いと感じ、クリエイティブだと受け取るありようこそが、「創造性がある」ということなのです。
誰か創造的な人がいて創造的なものを生み出す、というのではなく、クリエイティビティは関係性の中で成立するのです。

仕事の中で言われた通りやるのではなく、工夫を入れてやって、「あ、いいね」って言われたら、どれだけ嬉しいでしょうか。
そんな仕事が増えたら、もっともっと工夫しようと思えるのではないでしょうか。

「コーポレートドラムサークル」の体感ワークの中では、今やっていただいたように、一定のリズムを互いにキープしながら、指示命令通りにドラムを叩くのでなく、一人一人が自分なりの叩き方にチャレンジしていただきます。
想定外の叩き方や、ユニークなリズムが飛び出してきます。そしてその瞬間に一人一人の心の中に起こっている出来事がとても大切なのです。

ドラムサークル例えば、「勇気をもって違う音やリズムを出してみようとすること」、これはまさに創造性の源です。ですからそのチャレンジを最大限に皆で楽しみ、讃えていきます。
そして、誰かから出てきた違う音やリズムをしっかり聴いて、「お、面白いねそれ!その音に自分がどう乗せていけばもっと面白い全体になるかな?」といった創造的な相互作用の連鎖が起こっていきます
もちろんここでは、摩擦やぶつかり合いもあり、そこから互いが軌道修正することも体験します。まさに本来的な自律性をもったチームを実現できます。
メンバー全体がリズムに乗り柔軟に機能しあってGROOVEがうまれると、最後には当初のリズムアンサンブルとは全く違うアンサンブルがうまれてきますし、自ずから笑顔や拍手がうまれてくるのです。
こうした体験をしながら、それを自分の仕事やチームの現状に置き換えて考えてもらったりします。

-ちょっと消極的にみると、やはり社会から評価され、成果は出さなければいけないですから、自分なりの工夫をするチャレンジは称賛するけれど、彼はもう少しうまくできるのではないかと思う人もいるかもしれません。
その工夫が、正直に言うと少し下手だなと思ってしまった場合は、どうなるのでしょう?

(深代)
そういう場面は往々にしてあるかもしれませんが、メンバーに対して「下手だな」と思っただけで終わってしまったら、そう思った人自身が今以上成長しないと思います。あるいは、それ以上、組織を成長させられないと思います。その場合、どう考え、何をすればいいのかも「コーポレートドラムサークル」の体感ワークで考察してもらいます。

-あら探しをしたり、誰かのマイナスポイントを話題に出しがちな集団も、残念ながらあるように思います。

(深代)
例えば「コーポレートドラムサークル」の最中に、実際それをやってもらえば、その行為がいかに無意味で時間のムダであるか実感できるのではないでしょうか。
先の社会構成主義的な見方で言うと、ネガティブな言葉を使って周りに表現すると、ネガティブな状態が実現することを自らどんどん助長するのです。「予言の自己成就」というのが社会学でありますよね。
今、おっしゃったようなケースというのは、社会的に自己効力感/関係効力感(ある結果を得るために適切な行動を自分/自分たちの組織はとれる、という自分/自組織に対する有能感・信頼感)を下げているわけですよ。ですから、とても問題です。

失敗をどう語るかが、未来を変える

-仲間のチャレンジをネガティブに語ることが、自分で自分を縛ってしまうようになってしまうのですね。

(深代)
それがまさに対話の重要性だったりするのです。未来や過去のことを対話することによって、未来の予想の仕方を制約しているわけですから。

-チームで起こった過去の出来事、失敗についてもどう捉えるかによって、これからできることや方向性が違ってくるのですね。

(深代)
そうです。失敗、いいじゃないですか。
失敗をどういう形でこれからに活かせばいいのかと考える見方と、失敗したらもう出来ないと決めつける見方とでは、全然、違うのですよ。
いかに自己効力感や関係効力感を高めるようなコミュニケーションができるか、ですよ。

「やはりこの部下とはうまくいかない」とか、「やはりあの部門はこうだから、うまくいかないに違いない」という予想や信念では、実際に「うまくいく」わけがありません。
だから、自己効力感が低くなったり、関係効力感が低くなったりしてしまうのは問題です。
過去のことを言うことによって、未来を制約してしまうのですね。

「あいつはできない」とか、「この人、下手」という思いがもし起こったとしても、その状況を変えるようなコミュニケーションをするのが科学的です。こういう行動をすればいいとやってみせたり、もっと細かく教えてみたり。こちらの働きかけによって、相手は少し変わるかもしれないですよね。

「コーポレートドラムサークル」の活用場面は?

-「コーポレートドラムサークル」のアクティビティは、初めて会う人同士でもかなり効果を発揮すると思うのですが、上司・部下関係などで日頃わだかまりや、言いづらいことがある人同士でも、うまく取り組めるものでしょうか?実際、何かが変わっていく場面というのはあるのですか?

(深代)
安全でオープンな場を継続することで、ドラムの叩き方が変わったり、反応が変わったりしたりするのですよ。
関係性も表れてきます。対話型アプローチの組織開発の限界のような話をしましたが、このドラムというのが、言葉にはできない“もやもや感”などを表現できます

「ちょっと、今の気持ちを叩き方で表現してみましょう。」
「どんな感じに聞えましたか。」
そして、「いろいろな意見を聞きながら、それで一緒に少し叩いてみましょうか。」こんな感じで進めます。

その“もやもや感”みたいなものが、皆で一緒に叩くことによって、ふっと軽くなっていくような感じがしたり、理解をしてもらいたくなったり、共感できたりします。

まさに、真似をすることによるミラーニューロンの発動みたいなところです。ミラーニューロンは、他人がしていることを見て、我がことのように感じる共感(エンパシー)能力を司っていると考えられています。
だから、言葉で何か重ねなくても、共通の体験をすることで関係が変容する

-「ドラムサークル」は治療にも活用されているのですよね。

(深代)
そうです。「ドラムサークル」は、基本的に治療のモデルです。僕も、もともとそれを勉強してきたのです。例えば、心の痛手を負った暴力をふるう少年への治療として、エネルギーを違う形で持つことによって、「自分も人と関われるのだ」、と自信を持たせるような例があります。このアクティビティを継続してやった集団はやらなかった集団と比較すると、良い回復成果が出た、という実証研究の結果もあります。

-企業研修での活用場面でいうと、数日や数週間にわたる、長いコースを一緒に過ごすメンバーのチーム・ビルディングとして使われることが想像できるのですけれど、それ以外の方向性はどのようなものがあるのですか?

(深代)
人材開発では、新入社員のチーム・ビルディングとして、あるいは労働組合の主催するメンタルヘルス対策といった場面で使われていたりします。
アメリカでは企業内の人種間の緊張感を和らげるために導入した例もあったようです。

組織開発に「コーポレートドラムサークル」を!

-より多様な価値観があればあるほど、属性も違う人がいればいるほど、有効かもしれないということですね。

(深代)
先日実施した企業研修では、メキシコと中国と韓国と日本の人が参加していましたね。初めて一緒に集まった人たちのチームづくりとして実施しました。メンバー一人一人の人となりが伝わってくるような、まさに言葉を越えるコミュニケーションの場でした。

他には、最初に話したような組織開発的な取り組みとしても導入されています。
ある職場の関係性をよりいい方向に向かわせるために対話のアプローチをするとして、その前段として、スタートの抵抗感を解消するために「コーポレートドラムサークル」をおこなう。

あるいは、定期的な振り返りをする際に、言葉で振り返るだけだと何か業務のようになってしまうところを、「コーポレートドラムサークル」で五感を使いながら、よりコミットしてもらうような仕掛けにすることもあります。

たとえば、振返りの場面では、3カ月間の自分なりの取組みを称えてもらいながら、リズムを叩き、応じる形でメンバーにもリズムで返してもらう。

言葉を乗せながら叩く場合もありますし、あるいは、「どういう気持ちで叩きましたか」と、あとから説明をしてもらうこともあります。

-「コーポレートドラムサークル」の場が活気づいたり、意味ある場になるために深代さんが心がけていることを教えてください。勇気がない人の背中を押すことも大事ですよね。

(深代)
そうですね。基本は参加者一人一人が主役。私は「伴走者」に努めています。このアクティビティの場においても、「自分はそれをできる」という自己効力感を持つことができると参加者の表情にも出てくるし、身振りも変わってくる。それを見逃さないようにしています

-挑戦やそれに対する周囲の受容を、参加メンバーにフィードバックしたり、共有するための観察者の役割もあるのですね。

(深代)
また、恥ずかしがって叩いているような場合には、「その恥ずかしがり方がチャーミングでいいね!みんなでチャーミングにやってみよう」と、ハプニングを材料に展開して活かすような工夫もします。

-心理学、人類学的な解説も加えるのでしょうか。

(深代)
講義は必要に応じてですね。「コーポレートドラムサークル」が終わった時に「楽しかったな」とか「できそうだな」と思えていることが重要なので、解説情報はなくてもいい。

リーダーが対象で、このアクティビティ体験を活かして”自分の組織のなかでどんな取組みをする?”と考える目的の場であれば、理論的な話もします。私ではなく参加者に、「コーポレートドラムサークル」のリーダー役・ファシリテーター役を体験してもらうこともあります。

自分の声のかけ方や、動きの見え方によってメンバーのやりやすさが変わったり、硬い表情だとメンバーも硬くなる、といったことを体感してもらいます。

-心や体も動かしながらアクティビティで体験したことは記憶に残りやすく、職場やチームでの試行錯誤につなげる効果が期待できますね。
最後に、人材開発・組織開発、組織づくりに携わる方へメッセージをお願いします。

(深代)
組織を脅かす要素や、組織の多様性が高まっている一方で、競争に勝つことが求められる今、人や組織をより科学的にマネージするスキルの必要性が高まっています。

言い換えると、これまでの“モノを効率的に扱う科学”だけではなく、人や組織の力を引き出す科学が求められる時代です。その意味では、組織開発はより一層重視される状況になっていると思います

お話してきたように、動物的な側面での安心や一体感を高める“非言語的な組織開発”と、ビジョンや目的を分かち合う“言語的な組織開発”の両方が大事ですが、前者はより前提となるものです。

そんな目で、皆さんもご自身の職場を見つめ直してみていただきたいと思います。

-どうもありがとうございました。

◆深代 達也(ふかしろたつや)プロフィール◆

一般社団法人日本能率協会 KAIKAプロジェクト室 主管研究員
組織開発分野セミナー講師:チームビルディング、組織力向上、モティベーションマネジメント、エンゲージメント向上
米国NLP協会認定トレーナー、DiSC公認インストラクター、Ocapiプラクティショナー
米国REMO社HealthRhythms&HealthRhythms Adolescent Protocolファシリテーター
“トレーニング・ビート”認定トレーナー、ドラムサークルファシリテーター協会会員
日本能率協会総合研究所にて、バランスト・スコアカードや人事革新・組織活性を中心としたコンサルティング&人材育成に従事。同研究所経営コンサルティング部長を経て「人と組織の可能性の最大化」を使命とする株式会社可能性コンサルタンツを設立。その後現職。
現在は、音楽なども活用した組織開発の推進支援、企業理念共有支援、エンゲージメント向上支援、インフルエンサーに向けたチームをエンパワーする力向上などの現場指導・人材育成等を推進している。