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公開日 : 更新日 : 目指してはいけない!リスキリングについての大きな誤解

デジタル化で実現した「Excelマクロでの時短」や「定型業務の自動化」。実はそれらはリスキリングというより「業務改善(アップスキリング)」です。本コラムでは、「既存業務の効率化」と「非連続なイノベーション」の決定的な違いを解説し、日本企業にありがちな誤解と、真のリスキリングを成功させるための組織条件に迫ります。

リスキリング推進の落とし穴—「デジタル化された業務改善」の蔓延

国や自治体の支援を背景にリスキリングへの意識が高まる中、さまざまな企業がリスキリングに取り組んでいます。

具体的な取り組み内容としてよく挙がるのが、「社員がRPA(業務自動化ツール)を学び、毎月の経費精算プロセスを自動化できた」「Excelマクロを習得し、データ集計の時間が半減した」といった事例です。

しかし、組織の未来を見据えた「経営戦略」の観点から捉え直したとき、ここには見過ごされがちな課題が潜んでいます。それは、リスキリングとしての取り組みが「デジタル技術を使った業務改善(アップスキリング)」にとどまっていて、本来の意味での「リスキリング」とは少し性質が異なっている例も多いという点です。実は上記の例なども、こうした「業務改善」のカテゴリに入る取り組みです。

このように現在の日本企業においては、リスキリングという言葉が「今の業務をもっと速く、正確にやるための手段」と認識されているケースが散見されます。

しかし、「アップスキリング(既存スキルの向上)」と「リスキリング(新しい価値の創造)」の混同は、企業の未来の成長を阻む、非常に危険な罠になり得ます。

アップスキリングとリスキリングの決定的な違い

そもそも、この2つの言葉はどう違うのでしょうか。

業務改善を目指す「アップスキリング(連続的な成長)」

「アップスキリング(Upskilling)」とは、現在の職務(ジョブ)をより高度に遂行するために、関連する新しいスキルを身につけることです。 例えば、経理担当者が最新の会計ソフトの機能を学ぶことや、営業担当者がオンライン商談のテクニックを学ぶことがこれに当たります。日本企業の得意とする「カイゼン」もその一種。目指すのは「生産性の向上」であり、いわば既存業務の延長線上にあります(連続的)。

事業構造の転換を目指す「リスキリング(非連続な成長)」

一方、「リスキリング(Reskilling)」とは、技術革新やビジネスモデルの変化に伴い、全く新しい職務に就くため、あるいは全く新しい価値を生み出すためにスキルを習得することです。
例えば、店舗の販売員がデータサイエンティストに転身することや、自動車部品メーカーの技術者がソフトウェア開発者に転換することがこれに該当します。目指すのは「事業構造の転換」であり、これまでの延長線上にはない成長だと言えます(非連続的)。

ここで注意したいのは、アップスキリング(業務改善)が不要だというわけではない、ということです。業務改善は、利益率を高める上で極めて重要な取り組みです。問題は、経営陣が求めているのは「リスキリング(事業の非連続な転換)」なのに、現場では「アップスキリング(目先の業務の効率化)」が行われているというズレにあります。

なぜ現場は「目先の効率化」に逃げるのか?

なぜ、私たちは無意識のうちにリスキリングを「業務改善」の枠に押し込めてしまうのでしょうか。経営学における「両利きの経営」の理論をもとに考えてみましょう。

企業が長期的に生き残るためには、既存の事業を深掘りして効率化する「知の深化」と、新しい事業機会を模索する「知の探索」の両方をバランスよく回す必要があります。

しかし、組織は放っておくと、自然と「知の深化(=業務改善)」ばかりを優先するようになります。なぜなら、深化は、ROI(投資対効果)が明確だからです。たとえば「このツールを学べば、作業時間が月10時間減ります」という成果は、現場のマネージャーにとって評価しやすく、上層部への報告もしやすいものでしょう。

これに対して、「知の探索(=本来のリスキリング)」は、すぐに成果が出ません。「新しい技術を使って、これまでと違う顧客層にアプローチする」といった挑戦は、失敗する確率も高く、いつ売上に繋がるか分からないからです。

現状の評価制度や目標管理が、効率性や確実性をベースに作られていれば、「知の深化(=業務改善)」は評価できますが、「知の探索(リスキリング)」は評価できません。社員が不確実な「探索」を避け、確実な「業務改善」に学習リソースを振り向けてしまうのは当然のことと言えるでしょう。

■リスキリングに必要な環境整備について提言するコラム
リスキリングの進まない組織がまず変えるべきこと>>

業務改善だけでは「衰退」リスクを避けられない

「それでも、業務が効率化されているのだから良いのではないか?」と考える経営者もいるかもしれません。しかし、ここに最大の落とし穴があります。

例えば、どれほど馬車を作るプロセスをデジタル化して効率を上げても、自動車という「新しいビジネスモデル」を生み出すことはできません。既存事業の賞味期限が急激に短くなっている現代において、「今の延長線上」の最適化だけに学習投資を続けることは、長期的には衰退を意味します。

リスキリングの真の目的は、社員一人ひとりの考え方を切り替え、会社が「次のビジネス」に乗り換える原動力を生み出すことにあるのです。

■誤ったリスキリングはむしろリスクを増大する場合も?関連コラムはこちら
真のDXのために~リスキリングすべきは「課題設定力」だ>>

真のリスキリングを組織で機能させる3つの条件

では、リスキリングを単なる業務改善で終わらせず、本来あるべき非連続なイノベーションに繋げるためには、経営や人事はどう動くべきでしょうか。

1.経営戦略(ビジネスモデル転換)と連動させる

「とりあえずDXの基礎を学ぼう」といった手段先行の学習は、必ず目先の業務改善に回収されます。
現場がリスキリングの意味を理解するためには、「我が社はモノ売りからコト売り(サービス業)へ転換する。だから、顧客体験をデザインするスキルが必要だ」というように、自社の事業ポートフォリオの転換と、それに伴う「必要スキルの定義」をセットで語ることが不可欠です。

2.「学習の目的」を評価から切り離す

前述の通り、既存の評価制度で測ろうとする限り、「失敗しない無難な業務改善」になりがちです。
イノベーションを目的とするリスキリングにおいては、「どれだけ時間を削減したか」ではなく、「どれだけ新しい仮説を立て、試行錯誤(実験)を行ったか」を評価する、全く別のモノサシを導入する必要があります。ミスの数を評価する減点法からか、手数を評価する加点法への転換と言ってもよいかもしれません。

3. 新しい挑戦を試す実験場を用意する

学んだ新しいスキルを、既存業務の枠内で発揮させようとすると、コンフリクトが起きがちです。

例えば、営業部門の社員がリスキリングで「データ分析」を学び、「過去の成約データからターゲットを予測し、訪問先を絞り込みましょう」と提案したとします。しかし、その部署の目標(KPI)が「1日あたりの訪問件数」で評価される仕組みのままであれば、直属の上司は「PCの画面で分析している時間があるなら、1件でも多く外回りをしてこい」と指示することになってしまうでしょう。

こうした事態を避けるためには、新しいビジネスモデルや価値創出を試すための、既存ルールの縛りを受けない実験場的な部署を設ける、兼務プロジェクトなど新しい場を意図的に用意するなど企業側の取り組みも求められます。

未来のイノベーションを描くためのリスキリングへ

リスキリングとは、決して「最新のデジタルツールを使えるようになること」ではありません。それは、自社のこれまでの戦い方を疑い、全く新しい価値を構想するための「知の探索」のためのス取り組みです。

Excelの作業をマクロで自動化し、浮いた時間をさらに別の定型業務に充てることは、「高度なカイゼン」であり、それ自体には大きな意味があります。しかし、その浮いた時間を今までは違う取り組みに投資できたとき、初めてリスキリングはイノベーションという果実を結びます。

経営陣に求められているのは、「とにかく何か学べ」と現場に丸投げすることではなく、「今の延長線上から外れて、新しい挑戦をしよう」と宣言し、そのための安全な土壌を整える勇気なのです。

■リスキリングの真の目的であるDXと、そのために必要な考え方を紹介したコラム
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