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公開日 : 更新日 : 人材育成で「エンプロイアビリティ」と「エンプロイメンタビリティ」の好循環をつくる
企業が人材育成に取り組む意義が、いま改めて問われています。エンプロイアビリティ(個人の「雇われる力」)を伸ばす支援することは、企業のエンプロイメンタビリティ(「選ばれる力」)を高めることにもつながる——そんな好循環をどう築くかを考えます。
エンプロイアビリティとは?
近年、「エンプロイアビリティ」や「エンプロイメンタビリティ」という言葉を耳にする機会が増えてきました。
エンプロイアビリティ(Employability)とは、個人が仕事を得て、雇われ続けるための能力、いわば「雇われる力」です。具体的には、専門知識・スキルはもちろん、課題解決力や協働力、変化に適応する力などが含まれます。
エンプロイアビリティは、大きく言って、内的エンプロイアビリティと外的エンプロイアビリティの2つに分けることができます。
内的エンプロイアビリティとは、「所属する企業に雇用され続ける能力」を指します。例えば、所属組織内でのみ重宝される特有の知識やスキルなどがこれに当たります。
一方、外的エンプロイアビリティとは、所属する組織外でも通用する労働市場価値を意味します。人とうまく関われるヒューマンスキルや、物事を抽象化して考えられるコンセプチュアル・スキルは、外的エンプロイアビリティを高める力と言えるでしょう。
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現在、とくに若い世代を中心に、どんな組織でも通用する能力、つまり外的エンプロイアビリティを求める意識が高まっています。背景には、先の読めない時代において、一つの企業に勤め続けることが当たり前ではなくなりつつあることが大きく影響していると考えられます。
エンプロイメンタビリティとは?
一方でエンプロイメンタビリティ(Employmentability)とは、企業が「働く人から選ばれる存在」であるための力です。「雇われる力」に対して「選ばれる力」ということもできるでしょう。問われるのは、従業員にとって「ここで働き続けたい」「成長できる」「貢献したい」と思える環境や機会を提供できているかどうかです。
エンプロイメンタビリティが注目される背景には、上述のエンプロイアビリティへの意識の高まりがあります。従業員のエンプロイアビリティへの意識が高まると、より魅力的な知識や経験を身につけられる環境を求めて人材が流出する可能性も同時に高まります。このため、企業側もエンプロイメンタビリティを高めて「選ばれる企業」を目指すことが重要になります。
「雇われる力」と「選ばれる力」はつながっている
エンプロイアビリティとエンプロイメンタビリティは、一見対立する概念のように見えますが、むしろ連動し、好循環を生み出す関係にあると言えます。
かつての日本企業では、雇用とは「会社が個人を選ぶもの」でした。しかし今では、人材不足を背景に、個人も企業を選ぶ時代です。ジョブ型雇用や副業の浸透、リスキリング支援の一般化といった変化もあって、人材の流動性は確実に高まっています。
このような時代に、企業が従業員のエンプロイアビリティを高める支援をすることは、一見すると「育てた人が辞めてしまう」ことへの不安につながるかもしれません。
しかし実際には、企業が「個の成長」を本気で支援する姿勢こそが、結果として「この会社で働きたい」と思われる理由になります。つまり、個人のエンプロイアビリティ支援は、企業のエンプロイメンタビリティ向上にもつながっているのです。
選ばれる企業になるためのエンプロイアビリティ投資
人材育成を「囲い込み」の手段と捉えていた時代は過ぎました。いま、従業員が企業に求めているのは、特定の会社でしか通用しないスキルではなく、「どこでも通用する力」「自分らしいキャリアをつくる力」です。企業がこうした力の習得を支援することで、「成長の実感」や「自己決定感」が高まり、むしろ自発的な貢献意欲が引き出されることも多くあります。
現代の若手人材は、多くが「自分が成長できるかどうか」を企業選びの重要なポイントとして考えています。こうした価値観の変化を踏まえれば、企業がエンプロイアビリティ向上に取り組むことは、もはや「余裕のある企業が行う福利厚生的な取り組み」ではなく、「採用・定着・活躍」を実現するための戦略的な投資と言えます。
実際に、キャリア研修やリスキリング支援など、個人のエンプロイアビリティを高める人材育成を行っている企業ほど、従業員の定着率やエンゲージメントが高い傾向があるとされています。
エンプロイメンタビリティを高めるためにできること
企業がエンプロイメンタビリティを高めるための取り組みとして、例えば以下のような施策があります。
1.制度の整備
例えば、社内公募制度や社内FA制度等があります。社内公募制度とは、部署が主導で社内他部署から人材を募集する制度です。社内FA制度はその逆で、人材が希望部署を指定して応募する制度です。
どちらの制度も、従業員が望むキャリアの実現を支援する制度といえます。
2.学習環境の整備
①選択型Off-JTプログラムの提供
オンライン/オフライン集合型研修やEラーニングなどで、個々人の希望に応じて選択できる手上げ式のOff-JTプログラムを用意することも有効です。
②自己啓発支援
自己啓発はOff-JTと違い、業務時間外の自主的な活動とみなされるため、企業の支援方法としては、学習テーマに関する情報提供や金銭的支援などがあります。
①②に共通点するのは、「やらされる学習ではなく、個の意欲を主導とした学習を支援する」という点です。高い学習意欲をもつ従業員にとって魅力的な環境整備ができる施策といえます。
3.適切なジョブ・アサインメント
ジョブ・アサインメントとは、マネージャーやリーダーが、メンバーに対して業務や役割の割り当てをすることです。
ポイントとなるのは、マネージャーやリーダーが1on1面談や日常のコミュニケーションからメンバーの個性やキャリアアンカーをきちんと理解してアサインメントしている、ということです。
適切なジョブ・アサインメントは、メンバー個々人が高いモチベーションで自らの能力を十分に発揮して働ける環境づくりに有効な施策といえるでしょう。
以上のように、エンプロイメンタビリティを高めるための方法として、エンプロイアビリティ向上を積極的に支援する仕組みづくりをしていくことが効果的といえます。
さらには、表面的な制度設計だけでなく、「成長を支援する文化」があることも、エンプロイメンタビリティにつながる重要なポイントです。
個の成長支援が、企業の未来をつくる
人材育成を通じて働く人一人ひとりの成長を支援し、活躍を後押しすることは、短期的な利益には結びつかなかったとしても、長期的には組織の信頼やブランドを高め、結果としてエンプロイメンタビリティの向上につながります。
現代はSNSなどで瞬く間に情報が広がる時代ですが、「育成に力を入れている」「多様な働き方ができる」「成長のチャンスがある」といった評判は、エンプロイアビリティを高めたい人にとって魅力となるからです。
これからの企業は、「雇われる力」と「選ばれる力」の循環を意識しなければなりません。その循環の起点にあるのが、人材育成などを通じた企業による個人のエンプロイアビリティ支援であり、その取り組みがさらに企業のエンプロイメンタビリティを高めるのです。