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公開日 : 更新日 : フリップラーニング(反転学習)のメリットと研修への取り入れ方
フリップラーニングとは、従来型の学びの流れを反転させた新しい学習スタイルで、オンライン学習環境が整った今、企業の人材育成においても注目が高まっています。本記事では、フリップラーニングの概要とメリット、導入のポイント、具体的な活用例をご紹介します。
フリップラーニング(反転学習)とは?
フリップラーニングとは、学習の「インプット」と「アウトプット」の順序を反転させた学び方で、「反転学習」とも呼ばれます。
従来の学習では、授業でインプット(知識習得)を行ったあと、各自で復習をするという学び方が一般的でした。しかしフリップラーニングでは、事前に各自が動画やテキスト教材を用いてインプットを行い、授業ではその内容を活用したディスカッションや実践演習などアウトプット中心の学習を行います。
この手法は企業研修にも導入されています。まず各自が動画などを見て予習し、研修で実践・応用に取り組むという流れで進めることで、オンラインは知識の習得、集合研修では演習というように、学ぶ内容を分けて効果的に進められるのが特徴です。
フリップラーニングが注目されている背景
近年、フリップラーニングが注目されている理由としては次のようなことが挙げられます。
1.学習効果の向上への期待
フリップラーニングが注目される最大の理由は、従来型の一方向的な講義中心の研修よりも、参加者の学習定着率が高まるとされている点にあります。事前に基礎知識を習得しておくことで、研修中にわからない点が明確になり、より深い理解を伴った質問や対話が生まれます。また、限られた研修時間を応用・実践に充てることで、現場での活用を意識したトレーニングが可能になります。
企業における人材育成では、「学んだつもり」や「研修後の知識の風化」が課題になりがちですが、フリップラーニングによってこうした問題の解決が期待できます。
2.オンライン学習インフラの進化
テクノロジー環境の進化も追い風となっています。コロナ禍以降、eラーニングや動画プラットフォームの導入が一気に進み、従業員がPCやスマートフォンでいつでもどこでも学習できる環境が整いました。これにより、「事前に自分のペースで学ぶ」というフリップラーニングの前提が、企業内でも無理なく実現できるようになっています。
さらに、学習ログの可視化機能などを組み合わせれば、人事・教育担当者が受講者の進捗や理解度を把握しやすくなり、集合研修をより効果的なものにできるでしょう。
導入の流れと実践のポイント
フリップラーニングの効果を最大化するためには、単に「動画を見てきてください」と伝えるだけでは不十分です。事前学習と集合研修をどう連動させるか、どのような仕組みで学習を支えるかが重要になります。以下に、基本的な導入ステップと実践時のポイントを紹介します。
導入する際の基本ステップ
事前学習フェーズ(インプット)
受講者は、自宅や職場でeラーニングや動画教材を視聴し、研修で扱うテーマの基礎知識を身につけます。この段階では「全員が同じ内容を学ぶ」のではなく、アセスメント結果や職務経験に応じたカスタマイズも効果的です。
集合研修フェーズ(アウトプット)
研修の時間は、事前に得た知識をもとに、参加者同士が対話・議論を通じて理解を深め、実践的なスキルを養う時間とします。ロールプレイング、グループワーク、ケーススタディなどを組み合わせて「自分で考えて話す」「他者と意見をぶつける」経験は、講師のファシリテーションのもとで行うことでより効果的な学びとなります。
実践のポイント
研修参加者のモチベーション維持
事前学習の実施率は研修の質を左右するため、意欲的に取り組める環境づくりがカギになります。学習開始前に研修全体の目的や効果を明示し、「なぜこの事前学習が必要なのか」を理解してもらうこと、さらにはリマインドメールの送信や進捗の見える化などで、学習の継続を促す工夫も有効です。
教材・コンテンツ設計の工夫
事前学習で使用する動画や資料は、「分かりやすさ」「テンポの良さ」が重要です。専門用語が多すぎたり、動画が長すぎたりすると、途中で離脱されてしまう恐れがあります。動画であれば1本あたり5分程度の短い内容に分け、視聴完了後に簡単な確認テストを用意するなど、集中力を維持できる構成が望まれます。
集合研修の内容の工夫
フリップラーニングでは、研修当日に講義を繰り返すのではなく、「事前学習で得た知識をどう使うか」を体験する場と位置づけます。そのため、参加者同士の対話や協働を中心に据えた設計が求められます。研修内容を実務に近づけるためには、自社の事例や課題を盛り込んだワークを取り入れると効果的です。
企業研修におけるフリップラーニングのメリット
フリップラーニングを企業研修に導入することで、さまざまな教育効果が期待されます。
アウトプット重視の学びにシフト
事前に基礎的な知識を習得済みであるため、研修当日は応用的な課題や現場に即したテーマに時間を割くことができます。これにより、研修の実務との接続性が高まり、受講者の納得感や達成感も向上します。
主体性の強化と学習意欲の向上
自分で予習を進めることで、学習に対する能動性が生まれます。また、講義を受け身で聞くだけの研修と比べ、事前準備を通じて「自分ごと」として内容を捉えやすくなり、学習意欲の向上にもつながります。
多様な参加者に対応しやすい
各自が自分のペースで事前学習を進められるため、もとの理解度にばらつきがある場合にも、ある程度レベルを揃えた上で集合研修を開始できます。
講師のフォローが効果的に届く
研修当日にディスカッションや演習が中心となるため、講師が参加者の思考過程や行動を観察しやすくなります。その結果、個々の理解度や課題に応じたフィードバックが可能となり、よりきめ細やかな指導が実現します。
実例紹介:JMA「戦略思考力シリーズ」における活用
フリップラーニングを活用したJMAの研修プログラムに、「戦略思考力シリーズ」があります。
プログラム構成
1.学習動画(事前学習)
アセスメント結果に基づき、各自の課題に応じたピンポイントな動画を視聴。集合研修を効果的に活かすための土台を作ります。
2.戦略思考力強化研修(集合学習)
対面またはオンラインで実施され、企業ごとの実務課題に即してカスタマイズした演習や対話で戦略思考を鍛えます。講師による丁寧なフィードバックも強みです。
3.確認テスト・振り返り
定期的な振り返りを通じて、学びの定着を図ります。
戦略思考力シリーズでは、このようにフリップラーニングの手法を取り入れることで、集合学習における参加者の主体性を高める工夫をしています。
本来、戦略思考力を身に付けるには、業務の中で自ら問題を解決する経験が欠かせませんが、研修の場でもそれに近い経験をすることで、初歩の段階からより着実に戦略思考の本質を理解することができるというわけです。
おわりに
フリップラーニングは、単なる「研修の前に動画を見る」という手法にとどまらず、「学び方そのものを変える」可能性を秘めています。インプットとアウトプットのバランスを見直し、学習の主体を受講者に戻すことで、より実務に直結する成果を導くことができます。
貴社の人材育成にも、ぜひこうしたスタイルを取り入れてみてはいかがでしょうか。