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公開日 : 更新日 : コンセプチュアル・スキルをどう高めるか
答えのない課題に向き合い、自ら問いを立て、意味を見出す力。それがいま、あらゆる世代に求められています。複雑な時代を生き抜く鍵となる「コンセプチュアル・スキル」の本質と、日常の中での育み方を探ります。
コンセプチュアル・スキルとは
コンセプチュアル・スキルとは、物事を抽象化し、体系的に整理する力、あるいは、目に見える現象の背後にある本質をとらえる力を指します。日本語では一般に「概念化能力」とも訳されます。身につけることで、曖昧で答えのない課題に対しても、状況の本質を見極め、周囲が納得できる形で方向性や解決策を導き出せるようになる力と言えます。
このスキルは、1950年代にアメリカの経営学者ロバート・リー・カッツ氏によって提唱されました。カッツ氏は、管理職に求められるスキルを「テクニカル・スキル」「ヒューマン・スキル」「コンセプチュアル・スキル」の3つに分類し、これを「カッツモデル」として示しました。
なかでも、組織における責任のレベルが上がるほど、コンセプチュアル・スキルの重要性が増すとされています。ただし今ではこのスキルが、中堅層・若手層にまで広く求められるようになってきています。提唱された頃と同様、「管理職に必要なスキル」であることは間違いありませんが、今は管理職に限らず必要な力だと考えるべきでしょう。
「コンセプチュアルに考える」とはどういうことか
コンセプチュアル・スキルを発揮するためには、そもそもコンセプチュアルに考えること、つまり物事を抽象的・概念的にとらえる思考習慣が必要です。
この思考の土台となるのは、以下の5つの力だとされています。
- 定義化:物事の本質を見極め、それを自分の言葉で明確に表現する力
- モデル化:複雑な物事の仕組みから本質的な構造だけを抽出し、シンプルな図やモデルとして表す力
- 類推:ある事象の構造や本質を他の場面にも応用する力(=比喩やアナロジーの活用)
- 精錬:多様な情報や視点の中から、鋭く本質を突きとめる力
- 意味化:現象や行動に意味づけを行い、他者と共有可能なビジョンや意義を描く力
これらの思考力が相互に働くことで、物事の奥にある構造や意味をとらえ、それを他者と共有しながら整理・活用していく力――すなわちコンセプチュアル・スキルが実践できるようになります。
なぜ今、コンセプチュアル・スキルが求められるのか
コンセプチュアル・スキルは、今なぜこれほどまでに重要視されているのでしょうか。その背景には、現代のビジネス環境や働き方の変化があります。以下の4つの視点から、その理由を掘り下げてみましょう。
1.正解のない問いに向き合う必要があるから
市場や社会の変化が激しい現代では、過去の成功体験が通用しないケースが増えています。顧客ニーズの多様化、環境問題や地政学リスクの影響、そしてDX推進に伴う業務構造の変化など、企業を取り巻く状況は日々複雑さを増しています。
こうした状況では、「前例のない問題」に対応するために物事を抽象化する力や、本質を見極めて再定義する力が不可欠です。まさにコンセプチュアル・スキルが生きる場面です。
2.多様な人と協働する時代だから
企業内外において、異なるバックグラウンドを持つ人々と協働する機会が増えています。世代間ギャップ、国や文化の違い、職種・専門性の違いなどが混在する中で、 意図や価値観を共有することが求められている状況です。
こうした中で、自分の考えを抽象化し、相手に合わせた形で再構築する力もまた、コンセプチュアル・スキルの核心と言えます。
3.意味づけが重視されるようになっているから
若手社員は「この仕事には、どんな意味があるのか」ということをよく考えると言われます。しかしこうした問いは、若手社員に限らず、すべての働く人にとって重要なテーマになっています。単なる業務の遂行ではなく、その背景にある目的や価値を理解し、納得感を持って進められるかが、モチベーションや生産性にも直結します。
納得感を生むべく、個人やチームの活動を意味づける力も、コンセプチュアル・スキルの一環と言えます。
4.膨大な情報の処理が求められるから
情報があふれる現代において、単に知識を集めるだけでは足りません。膨大な情報の中から、何が本質であり、どのように活用すべきかを見極める力が求められています。
コンセプチュアル・スキルは、情報を構造化し、概念レベルで整理することで、単なる知識を知恵に変えるための武器になります。
5.AI時代における人間の役割として
生成AIにより、大量の情報を瞬時に処理し、一定のアウトプットを自動生成できる時代が到来しています。こうした中で重要になるのが、AIでは代替しにくい「問いを立てる力」や「意味を見出す力」です。与えられた情報を受け取るだけでなく、「何を問題ととらえるか」「なぜそれが重要なのか」といった、本質的な問いを自ら設定し、方向づけていく力が、これまで以上に求められています。
コンセプチュアル・スキルは、まさにそうした力の土台となる思考能力です。
コンセプチュアル・スキルを研修に取り入れる際の注意点
研修でコンセプチュアル・スキルを強化する場合、以下のことに留意しながら行うとよいでしょう。
長期的な視野で磨く
コンセプチュアル・スキルは、先天的な要素、地頭の良さが影響するとも考えられていますが、トレーニングで後天的に伸ばすことが可能です。ただし、一日で身につくようなスキルではないため、学んだあとの実践も含め、長期的な視野で磨く必要があります。
コンセプチュアル・スキルを構成する能力を理解する
コンセプチュアル・スキルは、抽象化や概念化などのほかにも、幅広い能力や資質を含んでいます。育成対象者の現状のレベル、組織として期待する姿を明らかにしたうえで、トレーニングの具体的なテーマ設定を行うとよいでしょう
コンセプチュアル・スキルを構成する能力としては、次のようなものが挙げられます。メンバーの成長度合いや特性に応じてこれらの力を鍛えることが、全体としてコンセプチュアル・スキルを高めることにつながります。
- ロジカルシンキング(物事を主観的にではなく、冷静かつ論理的に考える能力)
- ラテラルシンキング(経験や常識に縛られず、自由な発想ができる能力)
- クリティカルシンキング(批判的に分析して解決策を見つける能力)
- 多面的視野(目の前の事象を複眼的に見る能力)
- 受容性(未知の価値観に直面しても拒絶せずに受け入れる能力)
- 柔軟性(物事に対し臨機応変に着手する能力)
- 知的好奇心(新しいものを楽しみながら取り入れる能力)
- 探求心(「どうしてこの結果になるのか」を考えながら研究・分析を行う能力)
- チャレンジ精神(失敗を恐れず挑戦する能力)
- 俯瞰力(広い視点で物事を捉え、どの位置にあるか把握する能力)
- 応用(技術や能力を工夫し、別の物事に役立てる能力)
- 洞察力(物事の本質を見極め、将来の展望について分析する能力)
- 直観力(直観的なひらめきをいかす能力)
- 先見性(数十年後におけるニーズを予測できる能力)
コンセプチュアル・スキルを日常のなかで高めるには
日頃の実務のなかでコンセプチュアル・スキルを高めるには、以下のことを意識して行ってみましょう。
自由闊達な議論が行える環境をつくる
コンセプチュアル・スキルが高い傾向にある人は、論理的に前提を疑う姿勢や柔軟な発想力をもち、会議などで提言や指摘をためらうことなく発言できます。一方、そうした人に対して、否定的な会社があるのも実情です。しかし否定的な環境下では、コンセプチュアル・スキルを備えている人の能力発揮・活躍のチャンスが失われます。会社やマネジメント層は、どんな提言や指摘も受け入れ、本質的でチャレンジも含む議論ができる環境をつくることで、社員のコンセプチュアル・スキルを高めやすくなります。
仕事の基本行動の中で習慣化する
コンセプチュアル・スキルを高めるためには、日常的に以下の3つを意識するとよいでしょう。
1)物事を抽象化する
検討している課題や起こっている事象について、「構造」や「主要な要素」を抜き出し、ディテールにあたる要素を取り除きますこうすることで物事の本質が見いだしやすくなります。
「 抽象化する」トレーニングの例
- 「要するに」というポイントを考える
- 物事の構造を考える
- 物事を図に書いて整理する、あるいは説明する
2)物事を定義づけする
物事の「構造」や「要素」に注目して、自分の言葉で定義します。
「定義づけする」トレーニングの例
- 「商談の成功とは?」「マネジメントとは?」など、「とは?」を使って、自分の言葉で定義してみる
3)物事を具体化する
1)2)で抽象化し、定義づけしたことを、「具体的にはこういうこと」と、相手がイメージできるように事例を挙げて伝えたり、実践に活かします。この「抽象化」と「具体化」を行き来する能力が、コンセプチュアル・スキルであるとも言えます。
「具体化する」トレーニング例
- たとえ話や事例を意識して活用する
おわりに
変化の激しい現代において、課題をそのまま受け取るのではなく、「何が問題なのか」「どのように意味づけられるか」と問い直す力が、あらゆる立場のビジネスパーソンに求められています。こうした力の土台となるのが、コンセプチュアル・スキルです。
個人の成長はもちろん、組織全体が未来志向で思考し続けるためにも、コンセプチュアル・スキルは今後ますます重要になってくると言えるでしょう。