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公開日 : 更新日 : リスキリングの進まない組織がまず変えるべきこと
「リスキリング」や「DX人材育成」が求められる一方で、日々の業務に追われ学習時間が確保できないという現状が課題となっています。本稿では、リスキリングが進まない理由の一つとして「効率化至上主義」という課題に注目し、組織が今すぐ取り組むべき解決策を提示します。

「リスキリング」が「ハラスメント」になっていないか?
日本企業の現場にはいま、さまざまに「変われ」という要請が降り注いでいます。「DX人材になれ」「AIを使いこなせ」といったことのほか、「自律的にキャリアを築け」といったことも当てはまるでしょう。
しかし、現場の実態はどうでしょうか。 日々の業務量は変わらず、人員はギリギリまで削減され、目の前の納期に追われているという人も多いものです。「eラーニングを視聴するように」と言われても、「いつやれと言うのか」と言いたくなってしまうのが現場の実情かもしれません。業務を減らさず、新たな学習だけを強いることは、もはや「リスキリング・ハラスメント」といっても過言ではありません。
実は、多くの企業でリスキリングが機能しない大きな要因は、こうした物理的な時間の不足や、失敗を許容する文化の欠如にあります。この二つが揃わないままリスキリングを進めようとしていることに、根本的な原因があるのです。
日本企業に「学ぶ時間」がない構造的理由
ではなぜ、日本の企業にはこれほどまでに「学ぶ時間」がないのでしょうか。 皮肉なことに、それは日本企業が長年かけて磨き上げてきた「強み」の副作用でもあります。
多くの日本企業はコスト削減と業務効率化を徹底し、そのことで生産性を高める、いわゆる「リーンな」経営で成功してきた歴史を持っています。この成功体験こそが、皮肉にも現在のリスキリングを阻害していることが考えられます。
経営学には「両利きの経営」という概念がありますが、その理論によれば、既存事業を磨き上げる「知の深化」と、新規事業やイノベーションを模索する「知の探索」では求められる組織能力が全く異なります。「深化」に必要なのは、規律、効率、ミスの排除。一方、「探索(=リスキリングによる変革)」に必要なのは、試行錯誤、遊び、そして失敗です。
多くの日本企業では、長年の「深化」への最適化によって、最小限の人員配置と一分の隙もない業務プロセスが完成し、それをよしとする文化が定着しています。そこには、新しいことを試すための余地は残されていません。「リスキリング疲れ」を感じている組織であれば、思い当たる部分もあるのではないでしょうか。
リスキリングを阻む「一時的な生産性低下」への無理解
実は、新しいスキルやツールを導入した直後、生産性は一時的に、むしろ低下することが知られています。確かに、慣れたExcel作業なら10分で終わる仕事を、慣れないBIツールで行おうとすれば最初は1時間かかるかもしれません。エラーも起きるでしょう。
従来通りの評価制度のもとでは、現場の管理職も、こうした一時的な効率低下を許容しづらい可能性があります。「そんなに時間がかかるなら、いつものやり方でさっさと片付けてくれ」と言いたくなるのも無理はありません。
結果として、社員は「学習すると損をする」「新しいことを試すと怒られる」という無力感に陥り、リスキリングは形骸化していきます。
「学習する組織」を作る3つの処方箋
では、この膠着状態を打破するために、企業は何をすべきでしょうか。 必要なのは、個人の努力に頼るのではなく、組織として構造を変えることです。
1. 「引き算」の意思決定を行う
企業がリスキリングを推進する際、多くの場合、「何を学ぶか(カリキュラム)」の議論に終始しがちです。しかし、それよりも先に決めるべきは、「何をやめるか」かもしれません。
まずは「社員の時間は有限だ」と認識すること。学習時間を10%確保するには、既存業務の10%を削減、あるいは停止する勇気も求められます。「これを学ぶために、この会議はやめる」「この報告書は廃止する」という「引き算の経営判断」こそが、リスキリングのスタートラインだと言えるでしょう。
2. 生産性の一時的な低下を「投資」と定義する
前述した、「学習初期の生産性低下」を乗り越えるためには、企業側からの公式なアナウンスが不可欠です。
現場の管理職に対し、「部下が新しいスキルを習得している期間、一時的に課の数字が落ちても、それをマイナス評価にはしない」と明言すること。 さらに言えば、「目先の効率を落としてでも、新しい手法を試みたプロセス」そのものを評価する制度設計が必要です。
「多少効率が落ちても許容される」という心理的安全性が担保されて初めて、社員は慣れ親しんだ古いやり方を手放し、新しいツールへの移行に挑戦できるのです。
3.学習時間を「サンクチュアリ(聖域)」化する
精神論ではなく、物理的な仕組みで時間を確保するアプローチも有効です。
生産性を重視する欧米の先進企業の間では、 「ノーミーティング・デー」を設ける動きが出てきています。「金曜日の午後は会議を入れない」といったルールを全社的に徹底し、その時間を内省や新しいスキルの習得に充てる「サンクチュアリ(聖域)」として機能させているのです。こうした施策は、「忙しいからできない」という言い訳を封じ、同時に「会社は本気で学習を支援している」というメッセージを社員に伝えることになるでしょう。
このように、学習をすき間時間に行わせるのではなく、業務の一部として公式な時間枠に組み込むことが、学習する組織への第一歩となるのです。
変化の波を乗りこなす「真の強さ」へ
かつての日本企業を支えた「1分の隙もない効率化」は、正解のないVUCAの時代において、皮肉にも新しい学びを阻む壁となっています。リスキリングを単なる「個人の努力」に委ねるのではなく、組織として業務を削り、失敗を投資と捉える「余白」を作れるかどうかが分かれ道だと言えるでしょう。
「忙しくて研修に出られない」という声が現場から消えたとき、その組織は初めて、柔軟なリスキリングによって変化し続ける力を手に入れることになるのです。



