5分でわかるビジネストレンドワード
「デザイン思考」とは?
概要・学び方・社内浸透の方法は?【2023年版】
最近はビジネスの世界でもかなり定着した感のある「デザイン思考」という概念。
イノベーションや問題解決の手段として注目されている一方で、「自社で取り入れる意味がわからない」「取り入れてみたがいま一つ浸透していない」といった疑問や悩みも耳にします。
ここでは、「デザイン思考」の概要、学び方、さらには社内に浸透させるための工夫についてご紹介します。
デザイン思考とはどういうものか?
デザイン思考という言葉だけを捉えると、デザイナーなど一部のクリエイティブな人向けの思考というイメージが浮かぶ方もいるかもしれませんが、決してそうではありません。
デザイン思考とは、問題解決のためにデザインの手法を応用する考え方のこと。
アメリカのデザインコンサルタント会社IDEOによって提唱され、その後世界に広まりまったもので、さまざまな場面で応用できる考え方です。
その特徴は、プロダクトデザインに欠かせない「ニーズ」「テクノロジー」「ビジネス」といった視点から、ユーザーが抱える潜在的な問題を発見し、解決策を考えるところにあります。応用できる範囲が広いため、デザインの世界だけでなく、ビジネスや教育などさまざまな領域で実践されています。
デザインに必要な考え方や手法が、デザイナーに限らず、ビジネスに関わるすべての人にとって必要とされているともいえるでしょう。
「デザイン思考」が誤解されがちな理由には、日本語での「デザイン」という語のイメージも影響しているかもしれません。
「design(デザイン)」という英単語は、日本語では「意匠」と訳されるなど、主にビジュアル面について言う語だと認識されてきました。
しかし、本来のdesignには「設計」「意図」「立案」などの意味もあり、「デザイン思考」という概念を捉えるには、こうした意味のほうがしっくり来ると言えそうです。
なぜデザイン思考が重要なのか?
モノが不足していた時代には、モノを作れば勝手に売れ、新しいモノが世の中に出るとユーザーは手に入れるだけで満足するというサイクルが成立していたこともありました。
しかし、モノがあふれた現代においては、「モノが世に出ただけでは売れない」ということはもはや常識になりつつあります。
ユーザーの興味がモノを手に入れることから、モノを手にした後の体験・感情を満たす「コト」に対象が変わったとも言われています。
「ユーザーがモノやサービスを購入・利用してどう感じたか」という、いわゆるユーザーエクスペリエンス(UX)や、モノを購入したあとにサービスを提供し続けるいわゆるカスタマーエクスペリエンス(CX)が重視されるようになったのはまさにこのためです。
そして、こうしたUXやCXを意識したサービスを設計するためにも、「ユーザーの抱える潜在的な問題を見つけ、解決する」デザイン思考は欠かせません。
また、急激な技術の進歩により、次々と新たなビジネスが生まれるデジタル分野も、デザイン思考が不可欠な分野の一つです。
情報処理推進気候(IPA)が発行する「DX白書2021」でも、新しい価値提供を実現するための手法として、「ユーザーが抱える真の問題と最適な解決方法を探索し創出する思考方法」としてのデザイン思考が有効と説いています。
DXとは、デジタル技術を活かして新たな価値を創出していくこと。そうした新たな価値を生み出す上では、デザイン思考が大きな役割を果たすといえます。
デザイン思考を取り入れることで何が可能になるか?
ここまで述べてきたように、「ユーザーに支持される商品やサービスの開発が可能になる」ということはデザイン思考の大きなメリットですが、デザイン思考を取り入れることで得られるメリットは他にも考えられます。
●メンバーが多様な意見を受け入れ、多様な視点を持てるようになる。
デザイン思考には「さまざまな意見を出し合う」というプロセスがあります。
これを繰り返すうちに、自分とは違う意見を受け入れることに慣れ、自然と多様な視点を持つことができるようになります。
●アイデアの提案が習慣化できる
意見を出し合う際には、できるだけ自由に出し合うのがデザイン思考の考え方。
日頃から取り組むことで、失敗を恐れることなくアイデアを出す習慣につながります。
●チーム全体のコミュニケーション・意欲が向上する
デザイン思考はその成り立ちから、チーム内の上下や立場の違いにかかわらず、すべての人がフラットに議論に加わります。
これにより、チームのコミュニケーションが改善するのはもちろん、より多くのメンバーがモノやサービスの設計に貢献したという意識を持つことができるようになるでしょう。
デザイン思考の考え方とプロセス
デザイン思考の特徴は、まずユーザー視点で考えるところにあります。機能や性能だけでは売れない時代にモノを得るには、ユーザーの感情に訴えなくてはいけません。
そしてユーザーの共感を得るためには、「ユーザーが何を求めているのか」「ユーザーが何を解決したいと思っているのか」など、ユーザー視点でものごとを捉える必要があるのです。
デザイン思考のプロセスは一般的には3~5段階で表現されることが多いですが、考え方の本質は同じです。
ここでは3つのプロセスについて紹介します。
Observation(観察)
インタビューやアンケートなどでユーザーのことを把握します。
自分自身で価値判断を入れずユーザーを観察し、ありのままを受け入れる視点を養います。
ユーザーがどんな気持ちでアンケートに回答したのかなどユーザー視点で考えることが必要です。
Brainstorm(知識共有)
チームの中で問題・ニーズを導き出していきます。
とにかく自由に意見を出し合うことが必要とされますが、広げるだけでなく、そこから深く掘り下げていくことも重要です。
深掘りすることでユーザー自身も気づいていない解決すべき本質的問題が見えてくることがあります。
Rapid Prototyping(試作)
アイデアが固まったら、最初から完璧なモノを目指すのではなく、まずは試作品を作ります。
Prototyping(プロトタイピング)とは検証・改善を重ねて優れたプロダクトに近づけていく手法です。
考えるだけでなくまずは形にしてみることが重要で、形にすることで新たな問題点に気づいたり、アイデアがより具現化できたりします。
プロトタイプができたらユーザーに向けてテストを行い、検証・改善を繰り返すことでクオリティをより一層高めていきます。
デザイン思考を身につけるための学び方
座学、ディスカッションだけでは、結局は「形になる」部分が実感できず、頭では理解はしたものの、現場に落とし込むことができないままになってしまうことがあります。
せっかく頭の中にアイデアが浮かんでも、表現できないのであればデザイン思考の効果は半減してしまいます。
そのため、表現まで含めてデザイン思考を体験できるワークショップ型の研修がおすすめです。
デザイン思考の3つのプロセスを研修の中で体感します。
出題テーマに対して観察・知識共有・試作という流れで、研修の中でも完璧を求めずにまずは形にしていきます。
このように、学びの中でデザイン思考を体験していきますが、体験したことを実際に社内で実践していくことが重要です。
実践を継続していくことで点が線となり、面となり立体へと変わっていきます。
自分の中の考え方、モノの捉え方のフィールドを広げていくために、基礎編+フォローアップ編といった継続的な研修実施もおすすめです。
(参考)デザイン思考ワークショップ入門
https://solution.jma.or.jp/service/training/theme/shikouryoku/gyomukaizen_32/
デザイン思考をどう浸透・定着させるか
デザイン思考はまだ新しい概念であるだけに、社内にデザイン思考の考え方を取り入れたいと思っても、社内からの賛同が得にくい、実務に直結するイメージがつきにくいと感じる方も多いかもしれません。
そこで、社内でデザイン思考を浸透させることに成功した例を一つ紹介したいと思います。
ある通信系の大手企業ではデザイン思考の定着を図るなかで、社内から「当社はデザインとは関係ない」「デザインは私には関係ない」という反応を受けました。
そこで、考え方はそのままに「デザイン」という言葉を使うのをやめ、「顧客志向経営」という表現に置き換えて社内研修を企画しました。
その結果、社内からの賛同を得て研修を実施することができ、参加したメンバーからは「デザイン思考と実務とのつながりが腹落ちした」との声が数多くあがりました。
この例のように、社内浸透には、共感を得ること・実際に体験してもらうことが必要です。
そのためには前提として、経営者、もしくは人材開発担当者や教育担当者といった研修企画者が、自組織の置かれている状況に対して健全な危機意識をもち、社内人材がユーザー視点の本質的な発想方法を身に着ける重要性を理解することが求められます。
そしてそれを社内やチーム内に対してメッセージとして発信することも必要となるでしょう。
まとめ
デザイン思考の概要、学び方、社内浸透についてご紹介しました。
特に学び方については、業界や受講者の職種によって、実態に即したものにカスタマイズすることをおすすめします。
新たな発想手法を獲得するための選択肢の1つとして検討してみてはいかがでしょうか。
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