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ワーク・ライフ・バランスから一歩進んだワーク・ライフ・エンリッチメントとは?

公開日:2024/04/17 更新日:2024/04/17

ワーク・ライフ・エンリッチメントとは、今まで対立するものとして捉えられていた「仕事と生活」の関係を、ポジティブに捉え直す新しい考え方です。なぜこのような考え方が生まれてきたのか、その意義はどんなところにあるのかをご紹介します。

ワーク・ライフ・エンリッチメントとは?ワーク・ライフ・バランスとの違いは何か?

エンリッチには「豊かにする」という意味があります。ワーク・ライフ・エンリッチメントとは、ワークとライフ、つまり仕事と生活の両方を豊かにし、双方を充実させるという考え方です。

ワーク・ライフ・エンリッチメントに似た語として、ワーク・ライフ・バランスという言葉は耳にする機会も多いでしょう。ワーク・ライフ・バランスは「仕事と生活の両立」というような意味ですが、実はこちらは、「仕事と生活は別物であり、対立するものである」と捉えた語であるとも言えます。「生活を重視し過ぎると仕事がおろそかになる」「仕事をしすぎると健康を害して生活に支障をきたす」といった具合に、生活は仕事の、仕事は生活の時間を奪うものという発想が根底にあるからです。ワーク・ライフ・バランスの代表的な施策である「働き方改革」も、発想としては「仕事と生活は対立する」という考えのもと、「働き過ぎず、生活に時間を使えるようにする」ための施策だとも言えます。

これに対し、ワーク・ライフ・エンリッチメントは、仕事と生活を「お互いに作用して質を高め合う相乗効果があるもの」とポジティブら捉える考え方です。たとえば「親の介護や育児の経験が部下の支援に活かせる」「仕事で鍛えられた交渉や段取りのスキルが、家族との円滑な話し合いに役立つ」といったことが、相乗効果の好例です。

なぜ今ワーク・ライフ・エンリッチメントが注目されているのか?

ワーク・ライフ・エンリッチメントが注目されるようになった背景には、次のような事情があります。

在宅勤務(テレワーク)の普及

コロナ禍を機に、各企業では従業員を出社させず、在宅勤務(テレワーク)で仕事を行うケースも増えました。こうした環境下では、1日のうちに仕事と生活を行き来する回数が増え、仕事と生活の切り替えを繰り返す状態になりがちです。仕事と生活の境界が曖昧になり、良くも悪くも互いに影響を与えやすくなったとも言えます。 

在宅勤務は今後もある程度定着することが予想されますが、そんななか、仕事と生活を「対立するもの」として捉えるのではなく、ポジティブな影響を与え合う可能性のあるものとして捉え、そのためにどうするべきかを考える必要性が生まれたと言えます。

ケア労働従事者の増加

ケア労働とは家事や育児、介護などのケアを行う労働のことを指す言葉ですが、社会全体でこうした「ケア労働」に従事する人が増えています。とくに少子高齢化社会においては、働く世代が男女を問わず、老親の介護をするケースがますます増加すると予測されます。

 ワーク・ライフ・バランスの推進は、仕事を続けながらでもこうしたケア労働に従事しやすくするための取り組みでもありました。たしかに、労働時間が短くなればケア労働に割くことのできる時間は増えます。しかしそれだけでなく、「どちらにも心理的、肉体的に良い状態で臨むにはどうなっていればよいのか?」と考えるのがワーク・ライフ・エンリッチメントの考え方。ワーク・ライフ・バランスからさらに一歩踏み込んだ考え方と言えます。

仕事(ワーク)と生活(ライフ)の関係はどのようなものか?

仕事(ワーク)と生活(ライフ)が相互に影響を与えるケースを改めて考えてみると、ネガティブなもの、ポジティブなものを含めて4つのパターンがあると言えます。

<ネガティブな例>

  • 仕事が生活に影響する例:仕事が忙しくて家族と過ごす時間がない
  • 生活が仕事に影響する例:ケア労働が忙しくて仕事の意欲が下がる

<ポジティブな例>

  • 仕事が生活に影響する例:仕事で得たスキルが地域活動に生きる
  • 生活が仕事に影響する例:地域のボランティア活動で信頼されるようになり、仕事にも積極性が出る

 仕事と生活が相互におよぼすこうした影響や効果のことを「スピルオーバー(流出効果)」と呼び、ネガティブなものについては「ネガティブ・スピルオーバー」、ポジティブなものについては「ポジティブ・スピルオーバー」のように呼びます。

これまでのワーク・ライフ・バランスの考え方は、どちらかというとネガティブ・スピルオーバーへの対策が中心でしたが、ワーク・ライフ・エンリッチメントの考え方は、ポジティブ・スピルオーバーに目を向け、仕事と生活の相乗効果を高めることに目を向けるものだと言うこともできるでしょう。

ワーク・ライフ・エンリッチメントの企業にとってのメリットは?

企業がワーク・ライフ・エンリッチメントを推進するメリットとしては、次のようなことが考えられます。

  • 従業員のやる気が向上する
  • 従業員が責任をもって業務や会社の行事に参加するようになる(コミットメントの向上)
  • 従業員が自分の職務の範囲外の仕事をする「組織市民行動(組織のために良かれと自発的に行動し、お互いに助け合うこと)」が起こる。
  • 離職が減る
  • 生産性や業績が上がる

このように、「生活の中での活動が仕事によい影響を及ぼす」ということが明らかになれば、今後は企業としても、ワーク・ライフ・エンリッチメントを進めるために、仕事と生活の垣根を低くし、従業員の生活を公式に支援する施策が求められるようになるかもしれません。

【関連URL】ジョブ型雇用、リモートワーク…役割分化が進む組織を支える「組織市民行動」とは?

ワーク・ライフ・エンリッチメントの実現に必要なこと

仕事と生活が相互によい影響を与え合うためには、下記のようなことが必要だと考えられています。

  • 自分の仕事について自分の意志で判断し、決定できること
  • 仕事を通じてさまざまなスキルを得られること
  • 上司に、部下が生活の中での新たな経験をすることを促す姿勢があること
  • 上司自身がロールモデルになること
  • 生活の充実を支援する公式な制度があること

例えば、次のような取り組みはワーク・ライフ・エンリッチメントを進めるものと言えそうです。

  • 従業員の家族を会社に招くファミリーデーを設ける
  • 子連れ出社やペット同伴での出社を認め、仕事とは分けてやっていたことを会社での業務と一緒にできるようにする
  • 会社の敷地内にフィットネスクラブや美術館等を設け、従業員とその家族が利用できるようにする

 なお、ワーク・ライフ・エンリッチメントを促す制度を設ける場合、育児や介護などのケア労働従事者に限定せず、誰にでも適用されるようなものとすることも重要です。特定の人だけが恩恵を受けるのではなく、「誰にでも制度利用の権利がある」と感じさせることがワーク・ライフ・エンリッチメントの実現の一歩と言えるでしょう。

仕事(ワーク)と生活(ライフ)を明確に分けないという考え方は、まだ多くの人にとってなじみのないものかもしれません。しかし、両者のポジティブな相互作用に目を向けることは、従業員のウェルビーイングを高め、よりよいキャリア形成を促すことにもつながります。ワーク・ライフ・エンリッチメントという考え方についても、意識しておく意義はありそうです。

 

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