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JMAの経営幹部育成プログラム①
経営幹部育成における日本独特の背景とは?
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長期的、計画的なサクセッションプランのために
JMAの経営幹部育成プログラム①
経営幹部育成における日本独特の背景とは?
経営幹部の後継者を計画的に育成する「サクセッションプラン」は、ここ数年注目を集めているテーマですが、現代日本ではまだ十分機能しているとは言えません。本シリーズでは、今後、効果的に経営幹部育成を進めていくにはどうすればよいのかを、JMAの経営幹部育成シリーズ担当者に聞いていきます。第一回となる本稿では、国内外でのサクセッションプランの現状や、日本企業の問題点を聞きました。
世界と日本のサクセッションプランの現状は?
——サクセッションプランとは、経営幹部の後継者を計画的に育成し、企業の持続的な成長を支えるための仕組みとして近年注目を集めています。まずは、こうしたサクセッションプランの実施状況について、現状を教えてください。
田中 海外グローバル企業、特にアメリカの企業では、サクセッションプランは何十年も前から一般的に導入されています。次期幹部構成をしっかりと育成していくというのは、経営者の責務と考えられているからです。
例えば、アメリカの企業では「ベンチ」という言葉がよく使われます。これは、スポーツチームの控え選手のように、次のリーダー候補を常にリストアップして準備しておくという考え方です。もちろんその時々でベンチメンバーの入れ替えはありますが、基本的にはエグゼクティブが就任すると同時に、自分のベンチメンバーを決め、責任を持って育成を行っていきます。また、その成長のための研修や多様な業務経験を積ませる仕組みが整っています。
一方、日本企業では、このようなサクセッションプランの導入は遅れています。日本企業では「業績」による評価が根強く、経営層の育成も、事業部内で優秀な人材がピックアップされ、そのまま昇進していく仕組みがまだ一般的です。つまり、業績を上げている人材が、社内的な人間関係によって引き上げられる構造が基本となっており、体系的な育成プログラムがないというわけです。
日本の経営幹部育成に見られる特有の事情
——日本企業がサクセッションプランを導入してこなかった背景には、どのような事情があるのでしょうか。
田中 一つは、先ほども挙げた業績重視の評価制度があると思います。マネジメントよりも現場の業務遂行能力が評価されやすく、組織全体を見渡せる人材の育成が後回しになってきたとも言えます。
また、日本企業では、実質的には人選を行っていても、あくまで取締役会、人事や経営戦略上位層のみのクローズドな世界で行い、選ばれた本人にすら公開しない傾向があります。海外の企業では、サクセッションプランの候補者を明示することで本人の意識を高めるのが一般的ですが、日本では、「選ばれなかった人が落胆するのではないか」との懸念から、候補者リストを非公開にする企業が多いのです。
しかし本来、社員のキャリア開発がしっかりできていれば、選ばれなかった人に対してセカンドチャンスを示すこともでき、候補者を公開してもモチベーションやエンゲージメントが大きく下がるということはないはずです。透明性の高いサクセッションプランが実行できなかったのは、キャリア開発という視点で準備ができていなかったことの現れとも言えるでしょう。
なぜ今、日本でサクセッションプランが注目されているのか
——とはいえ、ここ数年、日本企業の間でもサクセッションプランへの関心が高まっていると感じます。それはなぜなのでしょうか?
田中 理由の一つは、2015年に導入された「コーポレートガバナンス・コード」の影響でしょう。この制度で上場企業は取締役会の役割強化や経営の透明性向上を求められるようになりました。また2018年の改定時には次世代の経営幹部の育成についても明記され、このことが「後継者を計画的に育成しなければならない」との認識が広まる大きなきっかけになったと考えられます。さらにこうした点が、海外の機関投資家や株主からとくに厳しくチェックされるようになったことも圧力となっています。
外部の目という意味では、これからその会社を目指す就活生やキャリア転職を目指す方々の目もあります。人に対しての投資をしっかりやっている企業かどうかという点は、そこで働く人にとっても大きなチェックポイントになっていて、そうした傾向も、企業がサクセッションプランを意識するようになった理由といえるでしょう。
従来の育成方法では限界があるのはなぜか
——従来のように業績ベースの人材登用にではどういった点が問題になるのでしょうか。
田中 コロナ禍が発生したとき、外食産業や宿泊業など影響を受けた業界はたくさんありましたが、中でも大きなダメージを受けたのは単一の祖業・主業への依存度の高い企業でした。このように、単一事業に依存するビジネスモデルはハイリスクであると証明されてしまった今、経営に求められるのは、企業全体、あるいはグループ全体のマーケットをにらみながら戦略を立て、グループ内のシナジーを生かして企業価値を高めることです。つまり、従来のように事業単位で業績だけを評価されてきた人材では、経営戦略を立てることはできないといえます。
さらに現代は、「事業を遂行していればよい」という環境でもなくなってきています。投資家は、売り上げ、利益といった財務的な数値目標を意識する一方で、ESG経営や人的資本経営など、非財務的な側面も評価しています。また、業績偏重の評価体系においては、ともすると数字で結果を出すためにガバナンスやコンプライアンスを逸脱してしまうことにもなりがちですが、今やそういった問題は大きなダメージにつながります。取締役はもちろん、現場の執行役員もしっかりと意識してリテラシーを上げていく必要があるのです。
日本の企業の中でも、こうしたことを意識する企業は出てきていますが、本当に理解して運用できている企業は、プライム市場に属する大企業の中でも半分以下なのではないかというのが私の印象です。
では、このような環境下での経営幹部育成はどのように進めればよいのでしょうか。次稿では、JMAの提供する経営幹部育成プログラムのうち、育成前期にあたるJMI(JMAマネジメント・インスティチュート)の内容と、あるべき育成開始時期、人選のポイントなどを引き続き聞いていきます。