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公開日 : 更新日 : リスキリングの大敵!社員の学習意欲を削ぐ人事評価制度の「バグ」とは?

「コストをかけて育成した社員ほど辞めていく」という現象は、残念ながらよくあることですが、その主な原因は硬直した人事評価制度にあります。本コラムでは、多くの日本企業が抱える人事評価制度の「バグ」にメスを入れ、リスキリングが報われる組織に変わるためのヒントを探ります。

リスキリングの大敵!社員の学習意欲を削ぐ人事評価制度の「バグ」とは?

「意識高い系」社員ほど辞めていく現状

「社員の自律的なキャリア形成のため」として、充実した教育制度を整えた企業で、皮肉な現象が起こるケースがあります。会社の呼びかけに応えて熱心に学び、資格を取得し、新しいスキルを身につけた優秀な社員ほど、競合他社へ転職してしまうという現象です。こうしたことが頻発すると、大きなコストをかけて社員を育成することに後ろ向きになってしまうのも理解できます。

なぜこのようなことが起こるのか。主な理由は極めて合理的なもので、「市場価値(社外での評価)は上がったのに、社内評価(給与・処遇)が変わらないから」です。

「リスキリングしろ」と号令はかけたものの、評価基準は「既存業務のKPI達成率」のまま……これでは、時間という投資をしてスキルアップした社員にとって、会社に留まる合理的な理由がなくなってしまうというわけです。

メンバーシップ型雇用とリスキリングの相性の悪さ

そもそも、日本の伝統的な「メンバーシップ型雇用」と、現代の「リスキリング」は、構造的に相性が悪い部分があります。
メンバーシップ型雇用では、給与は「職能(人の能力ランク)」や「年次」で決まり、「職務(ジョブ)」には強く紐づきません。

そのため、例えば経理部の社員が自学自習でPythonを学ぶなどして「データ分析」のスキルを習得しても、会社側には「データサイエンティスト」として処遇する枠組みが存在しないケースが大半です。

その結果起こるのは、「〇〇さんはPCに詳しいから」と、従来の経理業務に上乗せする形で、データ整理や分析業務を依頼される、という事態です。努力してリスキリングした社員にとっては、給料は変わらないまま仕事だけが増え、上司からは「便利屋」として重宝されることになるわけです。

これでは、学ぶ意欲が湧くはずがありません。そこにあるのは、スキルを身につけた人間が損をする構造だからです。

学んだことを実践する「プロセス」は評価されない?

研修や学習で得た知識は、実際の現場で応用され、成果に結びついてこそ意義があります。しかし、多くの企業の評価制度では、そのプロセスを評価する項目が欠落しています。

一般的な評価項目は、「業績(結果)」か「情意(やる気・規律)」の二極になっているのではないでしょうか。つまり、学んだことを活かして結果を出せば評価されますが、「新しい手法を試したが、まだ結果が出ていない期間」や、「既存のやり方を変えようとして生じた摩擦」を評価する仕組みはないということです。むしろこの期間については「非効率」として減点対象になることさえあるのではないでしょうか。

「結果が出て初めて評価される」というシステムでは、リスクをとって新しいスキルを使おうとする社員はいなくなってしまいます。

学べば報われるエコシステムの考え方

では、この負のサイクルを断ち切り、リスキリングを定着させるために、企業はどのような評価・処遇面でのアップデートを行うべきでしょうか。必要なのは、精神論や愛社精神に訴えるのではなく、「学習行動が合理的な選択である」と感じさせる仕組みを作ることです。以下に重要な2つのポイントを示します。

1. 「プロセス評価」の導入

まず着手すべきは、成果が出る前の「試行錯誤」を評価項目に組み込むことです。具体的には、従来の「業績評価」に加え、「変革行動評価(プロセス評価)」を導入するか、そのウェイトを高めます。
たとえば、「新しいツールを使って業務改善を試みたか」「既存のルーチンワークを見直す提案をしたか」といった項目を評価シートに新設するのも一つの方法でしょう。
このように、評価制度を通じて「仮にその試みが失敗に終わったとしても、現状維持を選ばなかった勇気を加点対象とする」というメッセージが伝われば、社員は安心して新しいスキルを試すことができるはずです。

2. スキルの可視化と現代版「手当」

かつての日本企業には「資格手当」がありましたが、現代のデジタルスキルは資格だけで測れないものも多くあります。
そこで、社内でスキルの認定制度(デジタルバッジなど)を設け、特定のスキル習得者には一時金や手当を支給するのもよいかもしれません。
「あなたの努力を会社は見ている」というシグナルを送ることが、エンゲージメントを維持し、「ここで成果を出そう」と考えてもらうための第一歩となります。

3. 社内流動化の推進

スキリングにおける残念な例の一つが、「学んだスキルを活かす場所がない」ことです。たとえば、経理部門でデータ分析を学んだが、上司がその価値を理解せず、相変わらず伝票整理ばかりさせているとしたら、離職は時間の問題かもしれません。
今の部署でスキルが活かせないなら、活かせる部署へ異動できる、いわゆる「「社内ポスティング制度」があれば、社員にとっても学んだことを活かす機会となり、やりがいが生まれます。
同時にそれは企業としても「全社最適」につながり、結果的にリスキリングの価値が最大化されることになるでしょう。

リスキリングを「コスト」から「人的資本への投資」へ

リスキリングとは、単なる業務スキルの「再教育」ではありません。企業のバランスシートには載らない最大の資産、すなわち「人的資本」の価値を最大化し、事業成長へとつなげるための投資活動です。

企業に求められているのは、「教育費」というコスト感覚から脱却することです。そして、投資に見合ったリターン(業績向上)を求めるだけでなく、自ら学び変化した社員に対しても、明確なリターンを還元しなければなりません。それは、学習プロセスへの適切な評価・処遇であり、新しいスキルを活かして挑戦できるポジションの提供です。

こうして評価制度のバグを修正し、人的資本への「投資」と「還元」のサイクルを回せる企業だけが、この人口減少社会において優秀な人材から選ばれ、勝ち残っていくことができるのです。

■評価制度だけでなく組織文化として変えるべきことについてはこちらのコラムから
リスキリングの進まない組織がまず変えるべきこと >>

■リスキリングについての理解を深めるために役立つコラム
目指してはいけない!リスキリングについての大きな誤解 >>

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